2020年04月07日

第五章 闘いの備え

第五章 闘いの備え


『小さな角』のつぶやき…

連れされた子供たちを取りもどす作戦会議か…。

攻め込む先が異国になるようだな。
とすれば、作戦の速度(スピード)が肝心だが、そのためには、いろんなカラクリを準備して作戦におり込んでいくことが必要、ということか…。

行者はわしの分身だが、ナニ、ドンドンこき使ってかまわん。
使え、使え!
(しかし、言いにくいことだが、あいつには変わった趣味があるからなあ…)


一 戦(おのの)く行者?

鈍い月がかかる空を見上げながら、善八は南町奉行の能勢頼相の屋敷からもどってきた。

二階座敷には皆が集まっていた。
その席には、慶順に案内されて、この国一番のカラクリ上手と言われる竹田近江と一番弟子のカラクリ伝次郎(でんじろう)、みずから鋼も打つ飾り職人の万造(まんぞう)もやってきていた。

善八が改めて行者の正体を明かして紹介した。
行者はいくつかの術を披露した。

「先夜の年季が入った泥鰌(どじょう)すくいの、あの腰のすわりようからただのお方ではないと思っておりましたが、そのようなお方であったか…。
行者様、改めてお付き合いさせて頂きますようお願いいたします」
と、慶順はまったく驚きもしないで頭をさげた。

そしてまた慶順と同様に、三人も興味を持つばかりで驚きもしなかった。
むしろ行者の術に興味津々の様子であった。
近江は、術のカラクリを知るためにはいつか行者を解剖してみねば、と思いながらぶきみにおだやかな目で行者を見つめていた…。

伝次郎は、行者の術と貧相な体格をくい入るように見ては、術が発揮されるための行者の体力と酷使の限界について頭の中で試算し、ブツブツとつぶやいては心覚えをしたためていた…。

万造は、いま作りかけの色んなカラクリに、行者のどの部分をはずして(?)合体させればよいか、と物騒な目で行者を見ていた…。

行者は、
(こやつらの目は無気味じゃ、蛙の跳躍(ジャンプ)を観察する悪童(ワルガキ)の眼のようじゃ、怖い…)
と、早々に術の披露を終了した。

(どうも奇妙な御仁が集まることよの…)
との心中のつぶやきをおさえて、善八は談合を再開した。

「作戦に関わる者たちは五月十八日までに長崎に集結するように。五月二十日を目途に唐船で長崎を出港する。
淡水(タンスイ)入港は五月末頃になろうかな。淡水撤収は六月十一日を目途とする。
道具や武器の手配は、改めて話すことにしましょうかの。
ただ、討ち入りの協力をお願いするお仲間には早くに連絡せねばならぬゆえ、先に決めておく。
武蔵殿、お京さん、尚栄さん、翔吉、頼みましたぞ。

次に帰りじゃが、阿蘭陀(オランダ)船の大砲があれば心強い。
翔吉、商館長(カピタン)殿へおかし頂くようお願いしてみてくれぬか」

「わかりました。が、阿蘭陀(オランダ)船から唐船への積みかえは大っぴらにはできませんので、お力をお借りしたいのですが」
と、翔吉は行者に顔を向けた。

「ヒエッ!ムム…、承知した」
行者は心の中で、鍛練(トレーニング)を開始せねばと思いながら受けあった。

「それ以外にもお力にすがることが、たんとございますんですが…」
と、今度は宗兵衛が行者に顔を向けた。

「ヒエッ!ムム…、承知した」
行者は心の中で、鍛練内容を強化せねばと思いながら受けあった。

桃太郎 行者役子角.jpg


二 作戦の要?

善八が改めて皆に向きなおり言葉を改めた。

「古来、城攻めは、立てこもる者の三倍から十倍の兵力がいるとされておる。
が、このたびは他国への討ち入りであり、鎖国令の手前もある。
ついては、目立たないよう最小限の人数で、しかも速やかに行わざるを得ない。
名代(みょうだい)は宗兵衛さんとする」
と、宗兵衛に続きをうながした。

宗兵衛は、順を追いながら作戦を皆に告げた。

「準備が終わった翌日の夜七つ半(午後五時)をもって作戦を開始する。
総束(たば)ねは翔吉とする。
淡水に集合した者は、大きく後詰衆(ごづめしゅう)、討ち入り衆、蝮(まむし)退治衆に分かれる。それぞれの束ねは…」
と、指揮者を指名したうえで、牙島要塞討ち入りの段取りについて続けた。

作戦説明のあと、宗兵衛が行者に向かって平伏した。

「この作戦の成否は、荘厳な光をまとった行者様のお力にすがるしかないのであります。是非お力を!」

「ん…、なんじゃ?」

「ま、ちょっとしたことで…。まず、各地の仲間への協力依頼の文を持つ使者を、それぞれの地にお連れ頂けたら幸いなのですが。それから…」

「それから?」

「地下牢内への連絡や、ちょっとした物を受けわたして頂けたら幸いの、幸いなのですが。それから…」

「また、それから?」

「私たちを要塞裏の岩山頂上にお運び願えたら幸いの、幸いの、幸いなのですが。それから…」

「またまた、それから?」

「城壁上の哨戒兵を倒すお手伝いをお願い頂けたら幸いの、幸いの、幸いの、幸いなのですが。それから…」

「またまたまた、それから?」

「空から監視して、海賊たちの動きなどを皆に伝えて頂ければ幸いの、幸いの、幸いの、幸いの、幸いなのですが」

『それから』と『幸い』が多すぎてこんがらがった行者は、面倒くさくなり寝たふりをした。

それを見たお京の、
「南海のお仲間への連絡には、私をお連れ頂けませんか」
との申し出に、目をパッチリあけて答えた。

「うむ、世話のかかる者たちだの、わかった。すべて受けてしんぜる!」
続く
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2020年03月31日

三 百連壇の巣

三 百連壇の巣


ややあって、怒りを飲み込んだ翔吉が気を取り直して声を上げた。

「ところで翔竜、百連壇のねぐらはまだハッキリしないか…」

「うむ、台北の近くというところまではわかったが、近くの民をおどして口をつぐませている。くわしい場所にたどりつくにはもう少し調べがいる」

翔吉は竜平が手に入れた天九牌をわたした。

「これは奴らの仲間の印らしい、手がかりになるかと思う」

「おう、これがあれば、すぐに奴らのねぐらをあばき出せよう」

翔竜の配下が台北に潜入した。
配下の帯には天九牌が下げられていた。
二人のあとから、鄭翔竜の弟の翔虎がそれとなくついていった。


淡水河の河岸横にある飲屋で男たちが安酒を飲んで大声で話していたが、腰に天九牌を下げた男が入ってくると口をつぐみ、酔いつぶれている一人を残してそそくさと店を出ていった。

翔虎は、その男の仲間のふりをして男を淡水に連れ帰った。
水をかけられて目をさました男は、おびえながらもすごんで見せた。

「俺様をこんな目にあわせたら、百連壇がだまっちゃいないぜ」

「俺様よ、その百連壇のねぐらが知りてえんだよ。急いでいる。素直に教えてくれたら痛い目にあわずにすむぜ」

男はあらがっていたが、

「面倒だ、始末しちまえ!」
との翔竜の言葉に、

「わかった、しゃべる。おれは下っぱなんだ、見のがしてくれ」

配下が確かめに出かけ、翌朝、台湾北部の少数民族バサイ族の珠光村(じゅこうそん)という村の村長(むらおさ)の息子を連れて帰ってきた。

「あの男の話に間違いありません」

百連壇のねぐらはおおむね次のようであった。

百連壇は珠光村という村の民を追い出して塒(ねぐら)にしている。追われた村人は、哀れにもさらに不便な山奥に引っこしたという。
清国の官憲(かんけん)は『地方自治の精神から、地域の動きには干渉しない』としているが、要は福建省巡撫の超笛統(ちょうてきとう)という役人が百連壇から袖の下を受けとり、とりしまらないだけなのだ…。

ここにも、『権威』の名を借りた理不尽がまかり通っているのであった。

「この人々を救うためにも絶対百連壇を根絶やしにするのだ!」
翔吉の声に、皆も心に誓った。

天九牌.png

天九牌


四 拉致(らち)被害者…

気を取り直したヨハネスが発言した。

「西班牙(スペイン)国王の命令書を是非とも奪うべきです。これがあれば作戦終了後、東洋から西班牙勢力を駆逐することができます。清国の官憲にも力を発揮するでしょう。それと、ここに書かれている八匹の悪鬼は西洋社会では有名な邪悪な者どもで、そいつらは…」
と、言い伝えられている姿形や、その特徴を説明した。

そして、改めて続けた…。

「最後に、まことに残念で悲しむべきことをお伝えしなければなりません。兄の文には、すでに日本の子女を含む約五十名の子供たちが海の向こうに連れ去られたそうです。この子らを救うことはもはや…」

皆は等しく息をのみ、そして下を向いた…。
皆の額には青筋がピリリと立ち、皆のひざに涙がしたたり落ちた。

散華(さんか)衆と鳩を残し、りふじん堂一党は行者の術で順次江戸に向った。

(からだが持チマシェン…)
との行者のつぶやきは、一切無視して…。

善八は、帰ってきた者たちの話をもとに考えをまとめた。

(『狂人が治める国』『徳義などを無視した利益を追うやから』『背骨がなく現実から遊離した無策の公儀』、これらがつむぎ出した理不尽な網をやぶり、なんとしてもとらわれている子供たちを救い出してくれる!)


四月中旬の夜。
善八は、同心大月謙次郎の案内で南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)をたずねた。

「うむ、そのようなことであったか…。討ち入りとその手立てについては万事その方にまかせる。鎖国の手前言いにくいことが多くあろうからの…。わしが全ての責を負う。よろしく頼む」

善八が退出したあと、頼相は暗い顔でつぶやいた。

「ご重役がた、特に柳沢吉保(やなぎさわよしやす)様が、善八たち民間人の実力をどのように考えられるか心配じゃ…」

同じころ、腕組みしながら仕世堂への道を歩いていた善八も、いつかは手切れになるであろう公儀との協力関係に思いをはせてつぶやいていた。

「いまは良いが、ことが終わったあとには…。
柳沢様には、強力な反動打撃(カウンターパンチ)を準備しておくことが肝要じゃ…

作戦は、子供を取り戻せば済む、という単純な物ではないのう…。
江戸にもどるまでの段取りと、江戸にもどるときの段取りに脈絡を持たせることが必要じゃ。
そして、南町奉行能勢様との関係は良好に維持し、江戸の人々の声を最大限に味方にして、同志の方々の協力も仰ぐ必要がある」
『官民共同体』の限界を見据えた、遠大な展開(シナリオ)を考え続けた…。

善八の頭上の月は、囚われた子供たちの涙が天に昇ってできた雲か、村雲(むらぐも)がかかって朧(おぼろ)であった…。
続く
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2020年03月24日

二 まさかの命令書…

二 まさかの命令書…

ヨハネスが、涙を浮かべた顔をあげて皆につげた。
「皆さん、地下牢につながれているのは間違いなく兄のフレデリックです。今回の一連の騒動の背景がしるされています!」

フレデリックは台湾紀行を書くために基隆取材におとずれ、牙島の要塞司令官、実は西班牙(スペイン)海賊の頭領であるアントニオに取材を申しこんで快諾された。

アントニオは、敵国と見なしている阿蘭陀(オランダ)の東印度(インド)会社や出島の様子を聞き出すため歓待したのである。

歓迎会が終わると自室にフレデリックをさそった。

「東印度会社の詳しい状況や、日本との交易の状況などを教えて下さらんか」
と、話をうながした。

しかし、フレデリックは自国の不利益になる一般的状況以上のことには口をつぐんだ。
アントニオは、拷問で口を割らせるしかない、との荒っぽい結論に達した。

「ちょっと用をたしてきます。ゆっくり飲んでいて下され」
と、部屋を出ていった…。

フレデリックは少々酔ってコップをとり落としてしまい、アントニオの机の下に転がっていったコップをひろおうとした。

すると、机の引き出しからはみ出した『命令書、親愛なる未来の東印度副王アントニオ殿…』との書き出しがある文書に気づいた。

それは西班牙国王カルロス二世の命令書であった。

思わずその文書を手にすると、驚くべきことが書かれていたのである。
文書を引き出しに戻したとき、アントニオに命じられた武装した男たちが現われて、フレデリックは地下牢に閉じこめられてしまった。

牢には、日本を含む多くの国の子供たちがとらえられていた…
アントニオは、阿蘭陀東印度会社の基地の状況や武装、蓄積した財産などを聞き出そうと拷問をくわえたが、フレデリックは頑として口をつぐんだままだった…。

しばらくすると、すでに地下牢にとらえられていた子供たちがどこかに送られていった。
そして新たに、清四を含む日本の子供たちが地下牢に送りこまれ始めたのだ…。

長崎出島にも滞在していたことがあり、東洋を長く旅していたフレデリックは、漢字の読み書きと簡単な日本語会話ができた。子供たちから事情を知ったフレデリックは、この牙島における事実は世に公表されなければならないと決意し、自分が殺されても誰かの目にふれる事を期待して記録をつづり始めた。

牢で自分の下着を引きさいて、たりなくなると子供たちの下着を分けてもらい、みずからの血で少しずつことの経緯を書き残した

ヨハネスは続けた。

「今西班牙は、顎が長いだけの、オツムが相当に思わしくないと評判のカルロス二世という国王が治めていますが、大変なことを海賊の頭領アントニオに向けて命令しています。その背景には、植民地経営と阿蘭陀に対する報復があるようです。貴国にとっても極めて重大なことが記されています」
と、命令書の内容を話し始めた…。

命令書

親愛なる未来の東印度副王、アントニオ殿、以下を命令する。

一、 墨西哥(メキシコ)経営に必要な子女を確保し、墨西哥に送りこむこと。別途指示することと考えあわせると日本人の子女が都合がよい。

二、 加拉巴(ジャカルタ)にある阿蘭陀(オランダ)東印度会社の拠点を攻撃し、壊滅させること。

三、 次に、日本の長崎に攻め入り出島の阿蘭陀商館を壊滅させること。

四、 同時に、できるだけ多くの日本の地を植民地化すること。

五、 悪鬼を祀る祭壇を作り崇拝(されたし。さすれば朕が契約した八匹の悪鬼に協力を命ずることができる。

六、 なお、悪鬼の協力を得るには、子女八名を選び生贄としてささげることが必要である。

七、 六に記す実施方法については、別号の祭事仕様(マニュアル)にしるす。

八、 清国の福建省巡撫(じゅんぶ)(行政長官)超笛統(ちょうてきとう)からさし出された『貴職の活動を阻害しない』『百連壇という民間組織に協力させる』旨の確約書と、同巡撫からの、援助金(ワイロ)の領収書を同封するので必要に応じて活用されたし。


(別号 悪魔祭・祭事仕様)

別一 朕は次の者たちと契約した。
首領デーモンと、クラーケン、ケルベロス、キマイラ、メドゥーサ、アメミット、ケンタウロス、サイクロプスの七匹の悪鬼、および下働きゴブリン。次号に記す呪符に八匹の悪鬼の名前が書いてある。

なお、書き間違いに備えて、予備の呪符を一枚つかわす。

別二 悪魔祭に用いる邪杯(じゃはい)と呪符をさずける。
これらには、朕がとり行った悪魔崇拝式において、すでに邪気をみたしているので、その方は次号に記す簡便な方法により悪鬼の力をかりることができる。

別三 以下の仕様にて祭事をとり行うこと。
まず、邪杯(じゃはい)と呪符および雌鶏を一羽準備する。
次に、八名の生贄の姓名を呪符に記した悪鬼の下に記す。
さらに、邪杯に雌鶏の生血を満たし、呪符をそのなかにひたして三分間待つ。『チンッ』と音がしたら祭事は終了である。

この時点で、悪鬼はその方たちが望む力を発揮するであろう。
悪鬼はその方たちの目にはうつらないが、天空になんとも言えない不快な気が満たされたと感じたとき、悪鬼が出現したものと判断してよい。

姓名が書かれた者が死亡した時に、悪鬼はその魂を喰い契約終了となり消えうせる。

別四 なお、下記事項は重要であり、十分注意すること。
呪符にしるす姓名が多少不正確であっても、悪鬼は仮に受けつけてその力を発揮する。
ただし、より正確な姓名に修正された新たな呪符に交換された場合は、先の呪符の内容は効力を失う。八匹の鬼は新たに記された姓名を持つ者の魂魄(こんぱく)を喰(く)らうこととなる。

命令書各号に成功した暁(あかつき)には、貴職に、印度から日本までの西班牙(スペイン)植民地を統括する東印度副王という地位を約束する。

一六八八年某月某日
日の沈まぬ国西班牙(スペイン)国王 カルロス二世 署名

しばらく、皆は言葉が出なかった…。
続く

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posted by ぷんぷん at 18:02| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする