2020年07月07日

三 髑髏(どくろ)号の最後『貧相な戦い』?

三 髑髏(どくろ)号の最後『貧相な戦い』?


その頃やっと行者が目をさました。しばらく寝ぼけていたが。

「ここはどこ?私は誰?」
「行者様しっかりして、この呪符を海賊船の物と取りかえてくるのよ!」
とのお京の大きな声に、やっと状況をつかむと、

「よし、行ってまいる!」
と、海賊と百連壇の正式の名前が書かれた予備の呪符をつかみ、疲れた身体に鞭打って髑髏号に向かった。

行者が艦長室に忍びこむと、八個の杯が乱れたまま置いてあり、卓(テーブル)の下にはふたが開いたままの、天九牌と火薬が詰まった木箱が置かれたままだった。

「この邪気が満ちている変てこな杯じゃな…」

行者はその杯に浸かっていた呪符をとり出して、代わりに、西班牙(スペイン)海賊と百連壇の幹部八人の正式な名前を記した予備の呪符を浸けた。

と…、小さな影がいくつか飛び出してきて行者にまとわりついてきた。悪鬼の僕(しもべ)ゴブリンである。

「やめろって…、ウゼーッ!」
しばらく貧相な戦いが続いていたが、疲労困憊で少々ゆるんでいた行者が、ブッとやってしまった。

ゴブリンが一瞬めまいをおこして動きをとめたところを、ねらいすました行者が絶妙に蹴っ飛ばした(ナイスシュートした)。そのゴブリンはテキーラの酒瓶を倒してしまった…。

九十度のテキーラが、テーブル下の木箱に流れこみ始めた。蹴っとばされたゴブリンがふらふらと立ちあがるはずみで、今度はローソクをたおしてしまった。

「ヤバイ!」

それを見た行者はしがみつく小鬼をふり放し、あせって船を離れた。

ややあって、『ドドーンッ、ドッカーン…』という大爆発が起こり、髑髏号があっという間もなく沈んでいった。あっけない髑髏号の轟沈である。

テキーラを伝わったローソクの火が木箱の爆薬に引火して爆発し、さらに船の火薬庫に引火したのである。
飛び散った髑髏号の破片が、楽市丸の横っ腹にも損傷を与えた…。

髑髏号が沈んだあたりから多くの黒い影がさ迷い出てきた。
海賊や百連壇の魂である。その影の中でもひときわ目だつ邪悪さの、八つの影が突然消えた。

デーモンと七匹の悪鬼が海賊と百連壇幹部の八つの魂を喰らい、契約終了ということでソソクサと姿を消したのである。


四 魂の復活…

波は静まった。

気づくと、楽市丸は明るい陽光が降りそそぐ八丈島の八重根浜に乗りあげて大きく傾き、波にゆられていたのである。
そして、船の大穴のそばに、飛来した髑髏号の破片が当たった子供、行者の友人清四が倒れていた…。

ヨハネスは持参した薬を使い、最新の西洋医学の知識を総動員して心臓手技治療(マッサージ)や人工呼吸を施したが蘇生しなかった。

行者は、船内の護符に向かってなんとかしてくれるよう訴えた。

七福神はいっせいに弥勒菩薩の顔を見た。

「わ、わかったって」
と、天上界の釈迦をたずねて清四の復活を頼みこんだ。
釈迦は東洋の冥界を支配する閻魔に確認したが…。

「清四君の魂は西洋悪鬼との戦いに巻きこまれたゆえ、届けが出ていないとのことじゃ。彼の魂はどうも西洋の冥界にとらわれたようじゃ…。よし、西洋の冥界から、清四君の魂を解き放してくれるように話してみよう。
ただし、一度冥界にとらわれてしまった魂を解き放つには、具体的な交替要員の魂が必要じゃ。誰か指名してくれんかの」

「ならば、この一連の騒動の元凶でもある、西班牙(スペイン)とかいう国の王カルロス二世はどうでしょうか。国王という大物ですから西洋の冥界の神も納得するんじゃないでしょうか」

「よしそれで交渉しよう」
と、その場からオリンポスの丘に向かい、ゼウスをたずねてブツブツ言うハーネスを二人で説得した。

清四の魂を冥界から解き放つのに成功したのである。

ただし、清四の場合は突発事項であったため、魂を開放してもらっただけではこの地上に甦ることはできない。

真っ白な顔色でピクとも動かない清四を見て、行者は右手で印を結び左手を清四の胸にあて、一心に清四の復活を祈り始めた。

しかし、変化は現われない。

それを見ていた恵比寿がやはり右手で印を結び左手を行者の肩にそえた。その恵比寿の左肩に寿老人の左手が、その寿老人の左肩には大国天の左手がというふうに、七福神が行者の後ろに連なっていった。まるで電車ごっこのように…。

真っ白であった清四の頬が、少しずつ赤みを増していった。
やおら弥勒菩薩が両目を見開くや、叫んだ。

「喝(カツッ)!」

すると、行者が手をそえていた清四の小さな胸に、うっすらと九曜紋(くようもん)に似た痣(あざ)が浮かびあがってきた。中心の大きな円に小さな角、その周りを、一番上にバナナとそれ以外に七つの宝船の模様と見える、全部で八つの小さな円が囲んでいた。

八絵図.png



そして清四の顔色が明るくなり、その痣がやっと見えるほどの薄さになると、清四が眠そうに目をあけ、
「ここどこ?おいらどうしたの」
と口を開いた。
九つの願いが一つになり、清四の魂をこの地上に呼び戻したのだった。

弥勒菩薩と七福神は人の目には見えないため、行者一人の働きに見えた。

「おおっ、行者様は神か仏か!」

「まあ、それほどでもないがの…」
と照れる行者に、弥勒菩薩が何か言いたそうに身を乗り出したが、七福神がなだめた。

「このたびはまさしく行者が頑張ったのじゃ、良いではないか」

「ま、良いか」
と、弥勒菩薩と七柱の神々はニッコリして拍手したのだった。

宗兵衛が善八を連れてくるよう行者に頼んだ。気分が極めて良好な行者は軽やかに答えた。

「応契牧場(OKぼくじょう)!」

「わしの十八番(オハコ)を…」
またまた抗議しそうな弥勒菩薩だったが、七福神になだめられて鉾をおさめた。
弥勒菩薩は天上界に、七福神は船の護符の中にもどっていった。

一生に何度もない、行者の晴れ姿であった…。

ノッた行者は、力瘤を作っては静止(ポーズ)!
その腕を背に回して、胸筋と腹筋を力んで静止(ポーズ)!
そして、満を持して、後ろを向いて振り返って大げさにニッコリ笑って静止(ポーズ)…と思ったら、皆は船に向かっていた…。

「オーイッ、置いて行かないで〜」
行者の叫びが寂しかった…。

島をはなれてしばらくしたとき、竹蔵の声に、皆が神棚の下に集まってきた。

「皆様来てください!この七福神の護符の絵柄が変わっているんですが…」
にこやかな七福神が乗る宝船という鉄板絵柄が、船べりに十四の足裏が見えるばかりになっていたのである。
行者は見えを張ってこたえた。

「あーそれ?
実は、先日の海賊との戦いで、ツーカーの仲の七福神の皆さんに加勢をお願いしたんじゃ。皆には見えなかったじゃろうが、西洋悪鬼の力を封じこめて頂いたんじゃが…、それでお疲れなのであろう。ま、わしの活躍と、正義感に共感して一段と頑張られたようじゃな、エヘンッ」

「そんなことがあったのですか…、ありがたいことです。…でも本当にツーカーの仲?」
善八が激しく疑(うたが)わしい目で見た。

「アレ?もしかして疑ってんの?しょうがないのう…。よし、わしがチョッとお願いすれば皆さんは姿勢(ポーズ)を変えてくれよう。わしが姿を消したら目をつむり

『…、…、ダッ!』と声がしたら護符を見てみよ」

と、行者は姿を消して護符の中に入っていった。皆は目をつむった。

「チョッとお付き合い願いたいのですが…」
「何じゃ?めんどうくさいのう」
と七福神はモゾモゾと起き上った。そこに行者は小さな声で、

「ダールマサンガー、コーロン…」
とささやき、今度は大声で、

「…ダッ!」
と声をかけた。反射的に七福神は動いて、止まった。
善八たちが目を開けると、先ほどとは異なったポーズの七福神が護符にいた。

やっと行者と七福神の関係を信用した善八は、

「それではお礼の意味で、七福神の皆様たちの顔が立つような工夫をいたしましょう」
と、行者とともにひと足先に江戸にもどった。
楽市丸は航海を続けた。

続く
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2020年06月30日

二 続 第三次海戦『神々の戦い』!

二 続 第三次海戦『神々の戦い』!


アメミットと戦う福禄寿にはこれといった芸はないが、それなりの戦いを展開した。

頭は鰐(わに)、鬣(ひげ)と上半身が獅子、下半身は河馬(かば)という、超チグハグな姿であることからコンプレックスを感じていた。その性格は獰猛ではあるが、かなり単純であることを見ぬいた福禄寿は優しく接した。

アメミットは、優しくされてつい福禄寿への攻撃が鈍ってしまった…。

死者の心臓をえさとして生きてきたアメミットに懇々と話しかけた。

「シーンパーイ、ないからね…」
と何度も首すじをさすると、河馬の足で立ちあがって猛り狂っていたアメミットはおだやかになり、やがて子犬のように寝息をたて始めた。

そこに福禄寿は異常に肥大した頭で頭突きをかました。

「キャインッ」
という声を発して、アメミットはゴロンとのびてしまった。

これも相当卑劣な作戦ではあったが、ともかくズノウ作戦ではあった…。

異質な戦いが別の天空で繰りひろげられていた。

剣、弓、矢、矛、鉄輪、投げ縄、大鋏と、それとなぜか鏡を、八本になった手に持つ弁財天はメドゥーサ目がけて攻撃を開始した。

行者からメドゥーサのことを聞いていた弁財天は、鏡をたくみに使ってメドゥーサの首から下のみを見ながら戦ったのである。

髪に見まがう、頭にうごめく無数の蛇から毒気を吐いて迎えうつメドゥーサは、左手に鏡の形をした石の団扇を持っている。右手の青銅の手の指をスルスルと伸ばして弁財天の髪をかきむしり、左手の石団扇で弁財天の頭を張りとばし、猪の歯で首を噛みきろうとした。

弁財天は、そうはさせじと、手に持つ剣や矛をメドゥーサの身体に突き立てると、大鋏でチョキンッ、チョキンッとメドゥーサの頭の蛇髪を切りとっていった。

なんとも言えない、クンズホグレツの戦いを展開するのだった。
ただしこの戦いは他のものとはチョッと変わっている。

互いに顔だけは攻撃しないのだった。

そして、どちらからともなく、なぜかタイミングよく化粧タイムが作られ、互いに化粧直しをすると、

「キャーッ」

「ギャーッ」
という身の毛もよだつ奇声を交わしながら、また戦いを再開するのだった。

何回かの化粧タイムが終わった時、弁財天の鏡が偶然にメドゥーサに向いた。

「しまったっ!」

思わず本能で、久しぶりの鏡をのぞきこんでほほ笑んでしまったメドゥーサが叫んだが、すでに手おくれだった。

「ギャッ」
という声を残して、石に変わって海底に沈んでいった…。

「ゼーッ、ゼーッ」
髪をふり乱し、息をはずませる壮絶な姿の弁財天には、誰も近よれなかった…。

大きな袋に唐辛子の粉を入れた布袋は、笑顔を浮かべた穏やかな顔でサイクロブスに近よっていった。

放浪の旅を愛する布袋ではあったが、みずから歩くことはまれになり、いつか太りすぎてメタボになってしまった。そこで、霊力を持つ背に負った袋を押す力をコントロールすることで、チョビッと瞬場移動する技を身につけている。

接近戦を好むサイクロブスは、三丈(約九メートル)にも及ぶ大きな体をかがめてその大きな一つの目で布袋をのぞきこんだ。そして鋭く大きな鋼の強さの爪を持つ三本指の両の手で布袋をつかもうとした。

曖昧な笑みを浮かべた布袋は、左手で背なかの袋の口をサイクロプスに向けて右手に力をこめた。

サイクロプスの両の手は空をつかみ、ついで唐辛子の粉が襲った大きな一つの目から流れ出す涙をぬぐうのみで、布袋の存在などもはや二の次になっていった。

「退散(ゲッツ)…」
という意味不明なかけ声とともに、布袋はサイクロプスが振り回す両手の外に瞬場移動していたのだ…。


さて、互いに一歩もゆずらぬ首領同士の戦いが天空の極みで展開されていた。

石松 (002).png


軽快な足拍子(フットワーク)にのせ、左胴拳(ボディ)、右の突上拳(アッパー)、そして左右の重い正面拳(ストレート)の連打を放つ弥勒菩薩。

背にはえた邪悪な大きな翼をたくみに使い、その口から地獄の炎をふきかけては上空に離れるデーモン。

一歩もゆずらぬ、互角の戦いが続けられていた。

しかし、時が移るにつれて配下の悪鬼の形勢が次々に悪くなっていくのが気がかりなデーモンは、次第に散漫な戦いを強いられていった…。

「アレッ、ヤバッ、エーッ、アイツモッ?」
とつぶやくデーモンは、弥勒菩薩との戦いに集中できなかったのである。
そしていつかプロポーズしようと思っていたメドゥーサが石になったのに目をやってしまった。

「アッ、アーッ、メドチャンが…」

メドゥーサのことを思うと頬がポッと赤らむ純情な一面を持つ、極めて複雑な性格のデーモンはガクッとしてしまった。

そこを弥勒菩薩は見逃さなかった。
たくみに左腕でデーモンの首をかかえこむと、力瘤が盛り上がった右腕でデーモンの顔と言わずボディと言わず、なさけようしゃなくボコボコに殴りつけた。

クリンチコール(消極姿勢指導)のない戦いに決着がついた…。
デーモンは、

「手拭(タオル)…」
と一声うめき、たおれていった。

目はつぶれ鼻血がふき出し、足はもつれていた。

東洋の神々と西洋悪鬼との戦いは終わった…。


桃太郎奇譚 七福神.jpg


海底から救い上げた石のメドゥーサを蘇生させて抱きかかえたデーモンたちは、まったく戦意喪失して、小さな白い手巾(ハンカチ)をふって天界の隅に小さく固まっていた…。

もともと八匹の悪鬼は、無理に旅行程(スケジュール)調整した海外旅行感覚でやってきていたので、

(こちらは、契約にそってやるべきことはやった。あとは報酬を待つのみだ…)という立場(スタンス)をつらぬいたのだ…。

デーモンとメドゥーサにいたっては、別の時空では弥勒菩薩側に立つこともあるのだが、西洋は契約社会であるためにドライに割り切って来日したのである。

楽市丸の護符に描かれた七福神は、元のおだやかな表情に戻っていた。
続く
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2020年06月23日

二 第三次海戦『神々の戦い』!

二 第三次海戦『神々の戦い』!


恵比寿はそのふくよかな顔をすて、大鯨の背に乗って鋼(はがね)の鞭を打ち振り、クラーケンめがけて何頭もの大鮫を仕かけた。

巨大な蛸の姿をしたクラーケンは、その大きな吸盤を持つ足に噛みつく大鮫を別の足でたたき、からみついては引きたおしていった。

恵比寿は大鮫を次から次と呼び集めては攻撃の手を緩めようとはしない。
大鮫にくらいつかれて噛みちぎられるクラーケンの足も、また次々に生えてきては大鮫を倒していく。

海はどよめき、恵比寿は何度も大鯨から滑り落ちそうになり、ずり落ちてはまた這い戻る、ということをくり返していた。そしていつのまにか尻尾のほうを向いて跨(またが)っていた。まことに格好よくないのだが、

「アリャリャ?鯨の頭が消えた…、まっいいか」
と、小さなことにはこだわらない恵比寿の大らかな性格はともかく、そんなことを言っている場合ではなかった。鋼の大鞭をふりかざしながら大鮫を叱咤して、クラーケンの息の根を止めようと戦いをいどみ続けた。

やがて大鮫が集まる速さが、クラーケンの足が生え変わる速さより速くなってくると、クラーケンの動きが鈍り始めた…。


多くの鹿を供にした寿老人(じゅろうじん)はケンタウロスを相手とした。

ケンタウロスは上半身が人間で、下半身が馬の酔っぱらいの乱暴者であり、弓矢を猛烈に射かけて寿老人にせまってきた。

寿老人は、いつもは不死の霊薬を詰めた瓢箪を持っている。
が、この戦いの前に多くの瓢箪を集めて、ほぼ百度の泡盛に詰め替えていた。
そして、瓢箪の首ひもを供の鹿の角にかけてケンタウロスを待ちうけていた。
ケンタウロスが射かけてきた矢の前に一頭の鹿を押し出した。

鹿は、
「や、や、やめろって…」

…とは、言わなかったが、そんな顔をしてビビッた。しかしケンタウロスの腕前よろしく、矢は瓢箪を射ぬき、あたりに泡盛がまき散らかされた。

こうなると酒に目がないケンタウロスは戦いなどそっちのけで鹿を追いまわし、瓢箪をうばっては泡盛を喰らい、フラフラになってしまった。

この時を待っていた寿老人は一頭の鹿の目の前にかざした指を、ケンタウロスのお尻に向けた。
その鹿は、
「隙(すき)ありっ!」

…とは、言わなかったが、ねらいたがわずその角でケンタウロスにカンチョウしたのである。

「ウッ…」
とのうめきとともに、ケンタウロスは悶絶した。

記録には残せない、相当卑劣な作戦ではあった…。


その青黒い顔が、怒りで赤黒い三面の顔に変わった大黒天は、五丈(約一五メートル)ほどにも姿を巨大化して空を駆け、ケルベロスに闘いを挑んでいった。

三つの頭にのたうつ蛇のひげをはやしたケルベロスは、毒を持つ涎をふりまき、竜の尾を打ちふり大黒天に立ち向かった。

大黒天の大きな拳がケルベロスの頭をたたくと、別の頭が大黒天の頭に喰らいつく。

「イテテッ」
と言いながら、その喰らいついたケルベロスの頭を叩くと、別の頭が大黒天の別の頭に喰らいつく。また、
「イテテッ」
と声が聞こえ…、いつ果てるともしれない戦いがくり返された。

天空には黒い雲が渦巻き、雷鳴が轟き、互いの首すじをねらってはもつれるという死闘を続けていたが、

「メンドクセーッ、もう頭にきた!」
と、大黒天がさらにその姿を巨大化して、ケルベロスの三つの頭を『グワンッ』と音がするほど三回殴りつけた。

「キューッ」
というなさけない声を出して、ケルベロスは失神したのであった…。


久々の公式戦に、毘沙門天は持っているなかで一番派手な甲冑をまとい、

「ヨッシャァーッ!」
との歓声を発して、右手に宝棒(ほうぼう)、左手に宝塔(ほうとう)を持ち、三叉戟(さんさげき)を背にして戦いにのぞんでいった。

相手は山羊の胴に獅子の頭、蛇の尻尾をくねらすキマイラである。

毘沙門天はキマイラの後ろにまわり、その背中に跨ると三叉戟を首筋に打ちこみ、

「天を駆けよっ(ハイヨーッシルバー)!」
と天空を駆けるのだったが、大きく背をふるキマイラからふり落とされ、今度は逆にキマイラの口から噴き出した火炎で、真っ黒こげになってしまった。

しかしそれは毘沙門天の闘争心に、より大きな火をつけてしまった…。
もう宝棒も宝塔もヘチマもない。キマイラの首に筋肉が盛りあがる腕を巻きつけた。激しくはねまわるキマイラに身体を振りまわされながらも、そこいら辺をグルグル回っているのだった。時おり歓喜に満ちた、

「天を駆けよっ(ハイヨーッシルバー)!」
との声を発しながら…。やがてキマイラは疲れはててしまった…。

続く
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