2020年02月11日

第三章 蝮が這った跡

第三章 蝮が這った跡



『小さな角』のつぶやき…

『自分たちのことは自分たちでやる』のは当り前のことだ。そんなことは親に小遣いをねだるような将軍(お前にだけは言われたくない オ・マ・エ・)に言われなくったって、将軍(オマエ)以外は皆わかっている!

が、起こった犯罪に対しては、捜査権や懲罰権がない士民ではなんとも対処するすべがないではないか!

こればっかりは公儀(政府)が毅然と対応してくれなければ…。
しかも、異国人がからんでいるようだし…。

しかし、役人にまかせておっては、何も解決しないのも現実だ…。

生類憐みの令がドウノ、鎖国令がコウノ、とたらい回しにするばかりだ。

神子丘十三(ゴルゴ13)(?)もいないし…。



一 蝮と蛙?

春がやがて来ようというのに、世相の乱れは一向に正されず、人々の心には春はまだ来ない…。

江戸の治安をあずかる南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)は、状況打開を図るために筆頭老中に談判した。

面を伏せて、

「ご老中、この頃の江戸で発生している多くの騒動は、寅三とかいう一介の香具師が起こせるほどの単純なものではありませぬ。黒幕が控えおるものと思われます。
似たような騒動が、各地の繁華な町でも発生しているとのことも耳にはさみました。国じゅうで起きている騒動がさらに続きますれば、公儀のご威光(いこう)がゆらぎかねませぬ。なんとしても早期に解決せねばなりませぬ」
と具申(ぐしん)すると、

「ク〜ッ、ク〜ッ」
という寝息が聞こえた…。

………。

頼助は退出した。

協力してくれる有志を募り『自ら解決するのみだ』と決心した。

数日後、提出された調べ書きに目を通しながら、頼相はつぶやいた。

「北町の手入れは時間の無駄であったわい。まとめると次のようなことかの…。
諸々の犯罪には、大がかりな唐人組織がからんでいるようじゃ。

この組織を『蝮』としよう。

唐人が絡むということを前提にすると、塒(ねぐら)は長崎にあるものと断定してよいであろう。仮に唐に本拠を置く組織だとすると、長崎の役目は前進基地ということか…。

蝮たちは長崎から東に向い、大坂、京、熱田など多くの富商(ふしょう)がいる町をねらった。そして各地の盛り場で裏家業を行っている顔役にとり入った。

この顔役を『蛙』としよう。

蝮は蛙に阿片を与えて一家を乗っとった。そして短期間で多くの利益をあげ、同時に奉行所の調べを混乱させるために、色んな犯罪を一斉に仕かけた。

その特徴は、世間で不評の生類憐みの令を基本にして組み立てたところで、この触(ふ)れに反発している人びとは捜査に協力することはないと見きっている…。

打ちこわしなどが起きれば、さらに荒稼ぎが見こめるとのねらいがもあったようじゃ。
そして、犯罪の手じまいを見こして、蛙が犯人であるかのような噂や証拠を周到に準備した。蝮は捜査が及ぶにおいをかいだら、すぐさま蛙を証言不能な状態にして身代りに仕立てて、自分たちへ捜査が及ばないようにした。

まだ、わからないのは…
蝮の正体は何者か?子供たちをこの先どのようにしようとしているのか?

いずれにしろ、長崎を調べぬことには、この霧の向こうには出られぬようじゃのう。異国との関りだけはないことを祈るばかりじゃ…」


頼相のつぶやく声を聞きながら、行者は頭上からその調べ書きをのぞいていた。
居所が明らかな者の近辺には、無形飛翔(ステルスフライト)の術で姿を消して近付くことができるのである。

日本列島地図1.png




清四がかどわかされたかもしれないということを耳にしていた行者は、なんとかとり戻す手がかりが得られないものかと、行者なりに南北奉行の調べの様子を見守っていたのだ。

北町奉行の川口宗恒を監視するのは時間の無駄であると、早々に見きりをつけ、最近は能相のみに標的(ターゲット)をしぼっている。

その日、善八に頼相に提出された調べ書きの話をした。

行者から話を聞いた善八は、北町奉行所の牢内にいる寅三からいきさつを確かめるように依頼した。

行者は深夜、無形飛翔(ステルスフライト)の術で牢内に忍び入り、夢枕囁き(マインドコントロール)の術で寅三の深層記憶を引き出した。それによると次のような事実が判明した…。


昨年の暮れ、熱田の、寅三の兄弟分の紹介状を持って唐人軽業一座が興行させてくれと申しこんできた。
寅三は一座に場所を分け与えた。そのうち唐人の束(たば)ねが、『疲れがとれますぜ、たまにしか使わなければ体にはまったく悪さしませんから』と、寅三に阿片をすすめた。そして幹部にも…

やがて唐人一味は寅三の自宅に居すわるようになり、寅三は奥の小部屋に押しこまれた。そして、自宅まで乗っとられてしまったのだ。

そして、ゆるみきった江戸の町に多くの犯罪を一斉(いっせい)に仕かけたのである。かどわかしも…。

そして、かどわかされた子供の中に清四もいたのであるが、寅三の子分の丈吉という男が、鰻とりをしている清四を連れ去ったとき、懐から天九牌がすべり落ちたのである。丈吉はふところからすべり落ちた物が何かはわからなかったが、直感で重要なものであると感じ、唐人の頭の行李から盗み出していたものである。
そのとき丈吉は気づかなかったが、唐人の一人に見られていたのだ…。

ここまで聞いたとき、牢番が見回りに来たため、行者はあわてて引き上げた。

その頃、丈吉を監視していた唐人は、江戸の束ねに報告していた。

「丈吉は軽業小屋で痛めつけて、逃げねえようにしばって転がしてますが…」
「あの根付を盗んだうえ、誰かに拾われてしまったか…。今ごろは役人の手に渡っているかもしれねえな。
ヨシ!丈吉を裸にして他に何か持ってないかよく確かめたら、土左衛門に見せかけろ。そろそろ引きあげどきだ!」

唐人の束ねは指示した。
「野郎ども、そろそろ潮時だ。
丈吉を始末したら、寅三一家のたれこみの用意をしろ。いままで流してきた噂を裏付ける証拠を、投げ文と一緒にできるだけ頭のゆるい御用聞きの家に投げこめ。小屋には何も残すな。寅三一家を集めて、奉行所で申し開きができないくらいに狂わせてしまえ。
他の町の仲間に、長崎に集まるよう回状をまわすことも忘れるな!」

「寅三、あとはまかせたぜ。せいぜい時間稼ぎしてくんな…」

北町奉行所同心山影琢磨(やまかげたくま)が使う御用聞きが投げ文を見つけたときには、唐人軽業一座は影も形もなくなっていた…、という顛末だった。
続く
ご訪問ありがとうございます!!
「クリックしていただけると励みになります!!」

ブログランキング・にほんブログ村へ


posted by ぷんぷん at 11:45| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月04日

四 立て続けの騒動…

四 立て続けの騒動…

そうこうするうちに、江戸の町にいろんな騒動が起き始めた。
公儀の無責任体制が産んだ人災である、とも見えるのだが…。

いわく…、(ある日の早朝、神田駿河町の両替商の店前に犬の屍骸が捨てられていたそうだ。数日後、男が店に現われ、犬の耳を店の前に放り投げ、法外な金を要求したそうだ。男は浅草の香具師の寅三一家の下っ端らしい…。『総会屋のイヤガラセ?』)

いわく…、(築地の魚河岸には、多くの船で日々魚介類が送られて来るのだが、その中にあやしい船がまぎれこみ、腐った魚を紛れ込ませて鮮魚問屋をあわてさせているそうだ。鮮魚問屋は、そのことを種に寅三からゆすられているらしい…『保健指導無策のピロリ菌?』)。

いわく…、(両国はずれの裏通りに、公儀お目こぼしで獣の肉を食することができる料理屋が開店したそうだ。そしてお広めと称して、『宣伝のために、一句頂けるとうれしいのですが』と、短冊と筆を招待した隠居の爺さんたちにわたしたそうだ。そのうち、腐りかけた犬の肉が料理に混じるようになり、腹をくだす者が出始め、ついには死人まで出たそうだ。後日、隠居たちのもとに寅三一家の男が現われ、法外な金を要求したらしい…。『生肉管理のあいまいな行政指導を突いたオラオラ詐欺?』)

いわく…、(大名おかかえの花形力士が、近頃、闘犬賭博にうつつをぬかし始めたらしい。そして、大名の留守居役や大身旗本の用人までも誘われて夢中になり始めたそうだ。胴元は寅三らしい…。『お相撲さんの博打?』)


そして、もっとも江戸の人々を激怒させ、公儀の無策をなじった犯罪が起き始めた…。

(子供が神隠しに会い始めたそうだ。それも頻繁に…。
神隠しとは言われているが、実は動物をとったり、いじめたりしたというささいなことを言いつのって脅してさらっていく、かどわかしじゃないかと皆が言っている。
大店の子供の親には、お狐様の使いと称する薄ボンヤリとした男が、目をむくような身代金を要求する書付を届けたらしい。御用聞きがその男をとっちめたらしいが、小金で頼まれただけで何も知らなかったらしい。裏で寅三が糸を引いているんじゃないかと囁かれているんだが…。『被害届無視!捜査怠慢!弱腰交渉!教条主義!』)

これら一連の犯罪のすべては、『友愛』を基本とした生類憐みの令を逆手にとった組み立てになっている。

被害者は、生類憐みの令の手前、大っぴらには奉行所に駆け込めないという相克(ジレンマ)に苦しんでいた。
そして、子供が神隠しにあった親たちは、その安否を気遣い大金を支払ったが、子供は帰ってはこなかった…。


ところで寅三とは…。
浅草界隈は江戸有数の盛り場である。この縄張りを仕きれば日々莫大な利益が転がりこむ。そして、無宿者や脛に傷を持つ者が隠れ潜む、かっこうの場所でもある。
近頃は、寅三という元は渡世人で全国を流れ歩いていた男が、奥山を仕きる香具師の元締めにのしあがっていたのだ。

大方の役人は自分たちの砦を守るのには熱心であるが、社会秩序を守り、庶民の生活を向上させるという本来の任務には『無関心』であり、『手抜き』を行い『職務怠慢』と言われても蛙の面に……ンであった。
結果として『未解決』の負の螺旋(スパイラル)から抜け出せない状況が続いていた。


人々は激昂し(イカリマクッ)た!

「理不尽だっ!」

子供がかどわかしにあった親は身を悶えて号泣し、その救済を訴えた。

飢饉が続くなか、これらの騒動のおかげで多くの物の値が上がり、人びとの暮らしはさらに貧しくなっていった。

まさしく人災である。

脈絡のない多くの法令。特に、なんと人間より犬が大事にされる生類憐みの令にいたっては…。
公儀の法令を自分たちの都合に合わせて歪曲し、人々の生活向上に関心を持たない役人…。

仕世堂は、役人の無気力、無策、無関心を糾弾し、一方で様々の犯罪、特に子供かどわかしの犯人に関する情報提供を無料読売で公儀と江戸の士民に喧伝した。

一方、役人の中では珍しくまっとうな南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)は配下に檄をとばした。

「全力をあげて確実な証拠と証人を集めるのだ!寝る間も惜しめ」


そうこうしているうちに、ある夜、北町奉行所定回り同心山影琢磨(やまかげたくま)がつかう御用聞きの長屋にいくつかの犯罪に関わる品とともに投げ文があった。

「寅三一家に関わるたれこみか…、あまり信用もできないが…」
と、琢磨は投げ文の件を奉行に報告した。

が、なんと北町奉行の川口宗恒(かわぐちむねつね)は、
「一網打尽にしろ!」
と、舞いあがってしまった。

宗恒は、もともとご先祖の功績で奉行職についていた、切れ者との噂は一切聞こえてこない奉行である。
親の七光りで湯島聖堂を出ており、自分は絵にかいたような筋目正しい選ばれし者(エリート)なのだと意識している。役人の鑑と言えば言えないこともないが、ようはよくいる勘違いに気づかない人たちの一人であった。

宗恒は配下を指揮して、ものものしく浅草の寅三一家宅に討ち入った。
が、家のなかは静かで、なんとも言えない甘臭(くさ)い煙にいぶされていた。
阿片(あへん)の煙であった…。
そして寅三と一家の者がマグロの燻製のように転がっており、これといった証言も聞き取れない廃人になっていた…。

これらの犯罪を解決できない公儀を非難する人びとの声は、大きくなるばかりであった。
それに対して、大方の幕閣(大臣・官僚)は何もしないくせに、

「何やら、大がかりな犯罪組織が関わっているやに聞いておりますが、経済援助を秘密裏に行い、犯罪の需要をおさえるのが、もろもろの犯罪の根元を押さえる有効な手だてかと思いまする」
とか、

「あの顎が見事に発達した見世者格闘者(プロレスラー)が正体では、と言われている未知殿(ミスターバッテン)と称する者を犯罪組織に特使としてつかわしましたらいかがでしょう」
など、公儀としての面目などまったくない策を綱吉に進言する始末(しまつ)である。

ところが!これらの具申を受けた綱吉は、

「うむ、どの策も効き目がありそうなもっともな策じゃ。すぐさまとりかかれ」
と、脈絡(みゃくらく)も何もない、行きあたりばったりの指示を出すのであった…。

しかし、具申した者は言いっぱなしで誰一人自らは動こうとせず、選任された担当奉行へ押しつけるのみである。
押しつけられた担当奉行はと言うと、次の人事異動が来るまで言を左右にして静かにしているのみである。

犯罪の被害にあった家の者、とりわけ子供をかどわかされた親は、憤りをとおり越して呆れるばかりである。
「本気で、犯罪者をつかまえる気があるのか…」

あてにならない公儀に愛想をつかした被害者たちは集まり、大手の読売屋(メジャーマスコミ)などの聞き書き屋の面談(インタビュー)をとおして、江戸じゅうに事件と被害の実態、それに公儀の無策を明らかにするよう訴えた。
しかし、大手読売屋は公儀のご威光(役人のプレッシャー)を恐れて、半端な記事しか書かない。

そして時がたち、色んな事件の記事の売れ行きが下がり始めると、担当には小僧以下の能力しかない芸人的鶯嬢(タレント女子アナ)などを当てる始末であり、世論形成には何の役目も果たせない。したがって何も解決しない…。
被害者は泣き寝入りするしかなかった…。

しかし、子供がかどわかしにあった親たちは到底あきらめることはできない。

「なんとか一日も早く子供を奪い返して頂きたい」
と、公儀に再三の陳情を続けるのだが、

「その方たちの悲しみは十二分にわかっておる。公儀も担当奉行を選任して、ことの解決に努力しておるのだ」
などという、なんの裏付けもない返事しか返ってこない…。
何もしない…、やる気も無い…公儀。
それを正す姿勢を見せない商業的世間の声(体制迎合マスコミ)…。

綱吉は、
「ゆすりや騙りにあった者たちや、神隠しにあった子供たちは可愛そうであるが、『盗人にも一分の理』と言うこともあろう。アル意味、友愛の心で接すれば犯罪者も悔い改め、神隠しにあった子供たちも戻ってくるのではないか」
などと、まったく意味不明な『アル意味』という枕言葉をつけた講釈を続けるのみであった。

人びとには、綱吉には統治能力など何もないことがわかってきた。

将軍就位の競争時点での公約(マニフェスト)を聞いて、もしかしたらまともな政を進めてくれるのではないか、と期待したのだが…。
それは言わば、『猫に向かってワンと鳴け』と言うに等しい、空しい期待であったのだ…。

被害にあった家では、

「綱吉の首を絞めてやる!」
とまで怒っているのだが、それに本人だけは気づかない…。

最悪の状況が続く…。
街には薫風が吹き渡る季節になっていたが、それとは裏腹に、人々は下を向くばかりであった。

苦しみ、悲しみにいつまで耐えれば良いのであろう…。
続く
ご訪問ありがとうございます!!

桃太郎 行者役子角.jpg


「クリックしていただけると励みになります!!」


ブログランキング・にほんブログ村へ


posted by ぷんぷん at 16:34| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする