2020年03月31日

三 百連壇の巣

三 百連壇の巣


ややあって、怒りを飲み込んだ翔吉が気を取り直して声を上げた。

「ところで翔竜、百連壇のねぐらはまだハッキリしないか…」

「うむ、台北の近くというところまではわかったが、近くの民をおどして口をつぐませている。くわしい場所にたどりつくにはもう少し調べがいる」

翔吉は竜平が手に入れた天九牌をわたした。

「これは奴らの仲間の印らしい、手がかりになるかと思う」

「おう、これがあれば、すぐに奴らのねぐらをあばき出せよう」

翔竜の配下が台北に潜入した。
配下の帯には天九牌が下げられていた。
二人のあとから、鄭翔竜の弟の翔虎がそれとなくついていった。


淡水河の河岸横にある飲屋で男たちが安酒を飲んで大声で話していたが、腰に天九牌を下げた男が入ってくると口をつぐみ、酔いつぶれている一人を残してそそくさと店を出ていった。

翔虎は、その男の仲間のふりをして男を淡水に連れ帰った。
水をかけられて目をさました男は、おびえながらもすごんで見せた。

「俺様をこんな目にあわせたら、百連壇がだまっちゃいないぜ」

「俺様よ、その百連壇のねぐらが知りてえんだよ。急いでいる。素直に教えてくれたら痛い目にあわずにすむぜ」

男はあらがっていたが、

「面倒だ、始末しちまえ!」
との翔竜の言葉に、

「わかった、しゃべる。おれは下っぱなんだ、見のがしてくれ」

配下が確かめに出かけ、翌朝、台湾北部の少数民族バサイ族の珠光村(じゅこうそん)という村の村長(むらおさ)の息子を連れて帰ってきた。

「あの男の話に間違いありません」

百連壇のねぐらはおおむね次のようであった。

百連壇は珠光村という村の民を追い出して塒(ねぐら)にしている。追われた村人は、哀れにもさらに不便な山奥に引っこしたという。
清国の官憲(かんけん)は『地方自治の精神から、地域の動きには干渉しない』としているが、要は福建省巡撫の超笛統(ちょうてきとう)という役人が百連壇から袖の下を受けとり、とりしまらないだけなのだ…。

ここにも、『権威』の名を借りた理不尽がまかり通っているのであった。

「この人々を救うためにも絶対百連壇を根絶やしにするのだ!」
翔吉の声に、皆も心に誓った。

天九牌.png

天九牌


四 拉致(らち)被害者…

気を取り直したヨハネスが発言した。

「西班牙(スペイン)国王の命令書を是非とも奪うべきです。これがあれば作戦終了後、東洋から西班牙勢力を駆逐することができます。清国の官憲にも力を発揮するでしょう。それと、ここに書かれている八匹の悪鬼は西洋社会では有名な邪悪な者どもで、そいつらは…」
と、言い伝えられている姿形や、その特徴を説明した。

そして、改めて続けた…。

「最後に、まことに残念で悲しむべきことをお伝えしなければなりません。兄の文には、すでに日本の子女を含む約五十名の子供たちが海の向こうに連れ去られたそうです。この子らを救うことはもはや…」

皆は等しく息をのみ、そして下を向いた…。
皆の額には青筋がピリリと立ち、皆のひざに涙がしたたり落ちた。

散華(さんか)衆と鳩を残し、りふじん堂一党は行者の術で順次江戸に向った。

(からだが持チマシェン…)
との行者のつぶやきは、一切無視して…。

善八は、帰ってきた者たちの話をもとに考えをまとめた。

(『狂人が治める国』『徳義などを無視した利益を追うやから』『背骨がなく現実から遊離した無策の公儀』、これらがつむぎ出した理不尽な網をやぶり、なんとしてもとらわれている子供たちを救い出してくれる!)


四月中旬の夜。
善八は、同心大月謙次郎の案内で南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)をたずねた。

「うむ、そのようなことであったか…。討ち入りとその手立てについては万事その方にまかせる。鎖国の手前言いにくいことが多くあろうからの…。わしが全ての責を負う。よろしく頼む」

善八が退出したあと、頼相は暗い顔でつぶやいた。

「ご重役がた、特に柳沢吉保(やなぎさわよしやす)様が、善八たち民間人の実力をどのように考えられるか心配じゃ…」

同じころ、腕組みしながら仕世堂への道を歩いていた善八も、いつかは手切れになるであろう公儀との協力関係に思いをはせてつぶやいていた。

「いまは良いが、ことが終わったあとには…。
柳沢様には、強力な反動打撃(カウンターパンチ)を準備しておくことが肝要じゃ…

作戦は、子供を取り戻せば済む、という単純な物ではないのう…。
江戸にもどるまでの段取りと、江戸にもどるときの段取りに脈絡を持たせることが必要じゃ。
そして、南町奉行能勢様との関係は良好に維持し、江戸の人々の声を最大限に味方にして、同志の方々の協力も仰ぐ必要がある」
『官民共同体』の限界を見据えた、遠大な展開(シナリオ)を考え続けた…。

善八の頭上の月は、囚われた子供たちの涙が天に昇ってできた雲か、村雲(むらぐも)がかかって朧(おぼろ)であった…。
続く
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2020年03月24日

二 まさかの命令書…

二 まさかの命令書…

ヨハネスが、涙を浮かべた顔をあげて皆につげた。
「皆さん、地下牢につながれているのは間違いなく兄のフレデリックです。今回の一連の騒動の背景がしるされています!」

フレデリックは台湾紀行を書くために基隆取材におとずれ、牙島の要塞司令官、実は西班牙(スペイン)海賊の頭領であるアントニオに取材を申しこんで快諾された。

アントニオは、敵国と見なしている阿蘭陀(オランダ)の東印度(インド)会社や出島の様子を聞き出すため歓待したのである。

歓迎会が終わると自室にフレデリックをさそった。

「東印度会社の詳しい状況や、日本との交易の状況などを教えて下さらんか」
と、話をうながした。

しかし、フレデリックは自国の不利益になる一般的状況以上のことには口をつぐんだ。
アントニオは、拷問で口を割らせるしかない、との荒っぽい結論に達した。

「ちょっと用をたしてきます。ゆっくり飲んでいて下され」
と、部屋を出ていった…。

フレデリックは少々酔ってコップをとり落としてしまい、アントニオの机の下に転がっていったコップをひろおうとした。

すると、机の引き出しからはみ出した『命令書、親愛なる未来の東印度副王アントニオ殿…』との書き出しがある文書に気づいた。

それは西班牙国王カルロス二世の命令書であった。

思わずその文書を手にすると、驚くべきことが書かれていたのである。
文書を引き出しに戻したとき、アントニオに命じられた武装した男たちが現われて、フレデリックは地下牢に閉じこめられてしまった。

牢には、日本を含む多くの国の子供たちがとらえられていた…
アントニオは、阿蘭陀東印度会社の基地の状況や武装、蓄積した財産などを聞き出そうと拷問をくわえたが、フレデリックは頑として口をつぐんだままだった…。

しばらくすると、すでに地下牢にとらえられていた子供たちがどこかに送られていった。
そして新たに、清四を含む日本の子供たちが地下牢に送りこまれ始めたのだ…。

長崎出島にも滞在していたことがあり、東洋を長く旅していたフレデリックは、漢字の読み書きと簡単な日本語会話ができた。子供たちから事情を知ったフレデリックは、この牙島における事実は世に公表されなければならないと決意し、自分が殺されても誰かの目にふれる事を期待して記録をつづり始めた。

牢で自分の下着を引きさいて、たりなくなると子供たちの下着を分けてもらい、みずからの血で少しずつことの経緯を書き残した

ヨハネスは続けた。

「今西班牙は、顎が長いだけの、オツムが相当に思わしくないと評判のカルロス二世という国王が治めていますが、大変なことを海賊の頭領アントニオに向けて命令しています。その背景には、植民地経営と阿蘭陀に対する報復があるようです。貴国にとっても極めて重大なことが記されています」
と、命令書の内容を話し始めた…。

命令書

親愛なる未来の東印度副王、アントニオ殿、以下を命令する。

一、 墨西哥(メキシコ)経営に必要な子女を確保し、墨西哥に送りこむこと。別途指示することと考えあわせると日本人の子女が都合がよい。

二、 加拉巴(ジャカルタ)にある阿蘭陀(オランダ)東印度会社の拠点を攻撃し、壊滅させること。

三、 次に、日本の長崎に攻め入り出島の阿蘭陀商館を壊滅させること。

四、 同時に、できるだけ多くの日本の地を植民地化すること。

五、 悪鬼を祀る祭壇を作り崇拝(されたし。さすれば朕が契約した八匹の悪鬼に協力を命ずることができる。

六、 なお、悪鬼の協力を得るには、子女八名を選び生贄としてささげることが必要である。

七、 六に記す実施方法については、別号の祭事仕様(マニュアル)にしるす。

八、 清国の福建省巡撫(じゅんぶ)(行政長官)超笛統(ちょうてきとう)からさし出された『貴職の活動を阻害しない』『百連壇という民間組織に協力させる』旨の確約書と、同巡撫からの、援助金(ワイロ)の領収書を同封するので必要に応じて活用されたし。


(別号 悪魔祭・祭事仕様)

別一 朕は次の者たちと契約した。
首領デーモンと、クラーケン、ケルベロス、キマイラ、メドゥーサ、アメミット、ケンタウロス、サイクロプスの七匹の悪鬼、および下働きゴブリン。次号に記す呪符に八匹の悪鬼の名前が書いてある。

なお、書き間違いに備えて、予備の呪符を一枚つかわす。

別二 悪魔祭に用いる邪杯(じゃはい)と呪符をさずける。
これらには、朕がとり行った悪魔崇拝式において、すでに邪気をみたしているので、その方は次号に記す簡便な方法により悪鬼の力をかりることができる。

別三 以下の仕様にて祭事をとり行うこと。
まず、邪杯(じゃはい)と呪符および雌鶏を一羽準備する。
次に、八名の生贄の姓名を呪符に記した悪鬼の下に記す。
さらに、邪杯に雌鶏の生血を満たし、呪符をそのなかにひたして三分間待つ。『チンッ』と音がしたら祭事は終了である。

この時点で、悪鬼はその方たちが望む力を発揮するであろう。
悪鬼はその方たちの目にはうつらないが、天空になんとも言えない不快な気が満たされたと感じたとき、悪鬼が出現したものと判断してよい。

姓名が書かれた者が死亡した時に、悪鬼はその魂を喰い契約終了となり消えうせる。

別四 なお、下記事項は重要であり、十分注意すること。
呪符にしるす姓名が多少不正確であっても、悪鬼は仮に受けつけてその力を発揮する。
ただし、より正確な姓名に修正された新たな呪符に交換された場合は、先の呪符の内容は効力を失う。八匹の鬼は新たに記された姓名を持つ者の魂魄(こんぱく)を喰(く)らうこととなる。

命令書各号に成功した暁(あかつき)には、貴職に、印度から日本までの西班牙(スペイン)植民地を統括する東印度副王という地位を約束する。

一六八八年某月某日
日の沈まぬ国西班牙(スペイン)国王 カルロス二世 署名

しばらく、皆は言葉が出なかった…。
続く

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2020年03月17日

第四章 災いの正体


第四章 災いの正体


『小さな角』のつぶやき…

驚いた!
近頃わが国でおこったいろんな犯罪を仕組んだのは、清国の犯罪組織かと思っていたが、南蛮国の王のムチャクチャな妄想がからんでいたとは…。

それにしても、手強い相手に戦いを挑むことになったわい。
悪さを仕かける奴らのねぐらはどこだ?

この際、鎖国令もへったくれもないだろう?



一 塒(ねぐら)の様子?

四月初旬の早朝、りふじん堂一党が乗る唐船『鶴港(かくこう)』が、密かに台湾北部西岸の港町・淡水(たんすい)に入港した。

翔吉が、反体制組織・鄭氏(ていし)党を率いる従兄弟の鄭(てい)翔(しょう)竜(りゅう)・翔虎(しょうこ)の兄弟と、無言で抱き合った。

そして、ひととおりの話をすると、翔竜がすぐさま決断した。

「西班牙(スペイン)野郎がそんな悪さを企んでいやがったか。いい機会だ、奴らをたたきつぶしてやる。暗くなってから出発だ」

皆は翌日の夜明け前に基隆(キールン)に着いた。
旅籠で一休みしていると、戻ってきた配下の話を聞いて翔竜が話した。

「あのせまい海峡の向こうの島は牙島(がとう)と呼ばれており、昔の西班牙要塞に海賊が巣くっている。島のまわりには大型の船は近づけない。
海峡の潮の流れは速く、満潮と干潮の動きに合わせて逆転する。

ところで一人の紅毛人が要塞に閉じ込められているということだ。
それと、淡水と基隆の中ほどにある、辺鄙な台北というところに百連壇が巣くっているようだ」
と、二階の部屋から見える海峡向こうの、石造りの要塞を指差した。

「その紅毛人の名前はわかりますか」
とのヨハネスの問いに、翔竜が答えた。

「残念ながら、今はそこまでは…」

「行者様は清四をごぞんじでしたね」

「うんよく知っているぞ、わしの親友だ。優しい子じゃ」

「ヨハネスさん、兄上はあなたと似ていますか」

「実は双子の兄弟なのです。両親さえもしばしば区別が付かず間違われるほどでした」

翔吉は二人に確かめると、調べについて指示した。

「行者様には母屋の中を見てきて頂けませぬか。竜平は空から要塞内部の配置と島全体の様子を書きとってこい」

「いざ行かん!」

行者は、ためらう竜平の手をムンズとつかんで飛び立っていった…。

行者の術を初めて見て驚く翔竜たちに、翔吉は『ハイハイ』とウンザリとしながらもその素性と術について説明した。

しばらくして二人がもどってきた。
竜平が図面をさしながら説明をはじめた。

「要塞ですが、正面一町半(約一六〇メートル)、奥行二町(二二〇メートル)ほどの長四角で、船着場から北東二町ほどのところに、基隆側に太い鉄鎖(てつくさり)で引きあげられる跳ね橋がある城門があります。
要塞のまわりについてですが、海峡はいちばんせまいところで十間ちょっとです。裏側に要塞を見下ろす高さの岩山があります。」
最後に、周囲の様子と内部の建屋(たてや)の配置に及んで話はおわった。

要塞.png


続けて行者が要塞内部の様子について説明した。

「母屋の下に格子で仕きられた地下牢があり、牢番が見張っておった。
中には清四君とおおぜいの子供たち、ヨハネス殿によく似た阿蘭陀(オランダ)のお人も。
阿蘭陀のお人は相当弱っておられ、身うごきもつらそうであったがのう…。

ところで、板壁に囲われた厠があるのだが、清四君が用をたしに入ったのを見て話をすることができた。驚きをおさえて牢内の話をしてくれたが、まことにかしこい子じゃ…。

長崎、京、大坂、熱田(あつた)そして江戸の、九十九人の子供たちが、かどわかされておった。可愛そうにのう…、グスン…。お、そうそう肝心なことを忘れておった。
そのヨハネス殿にそっくりな阿蘭陀人からということで清四君からこのような物をあずかってまいった。わしには何が書いてあるのかわからんが…」
と布切れの束をヨハネスにわたした。

ヨハネスが布切れを読む姿を、皆は見守っていた…。
と、その静寂をやぶって行者がつぶやいた。

「しかし、おそらく水堀から引きこまれた水が下に流れる清潔なあの厠はすばらしい。もちろんポットンには鉄格子がはまっているんじゃが、水洗式ともいうべきものか…」
と、みょうに水洗式厠を気に入っている。

……、またしばらくの沈黙。

(やはり変わっている…)
と、皆は芋虫(いもむし)の声を聞いた時のような、驚きの目で行者を見たのであった…
続く
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posted by ぷんぷん at 14:56| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする