2020年05月05日

三 百連壇攻撃!

三 百連壇攻撃!


百連壇のねぐらを包囲していた部隊は作戦を開始した。
鄭氏党(ていしとう)の配下が珠(じゅ)光(こう)村の若者たちとともに、天九牌の根付を見せて村に入っていった。
珠光村の若者は竹かごに入れた肉や米野菜、甕(かめ)に入れた酒と薪を背負っている。

「ありがてぇ、酒がきれていたところだ。米と野菜は母屋に運べ」
と酒甕を家の中に運びこませた。

皆は、高床の家の床下に発煙薬を仕込んだ薪をそれとなく置き、梯子下に麻袋を入れた竹かごを目立たないように隠した。
そして、そっと麻袋の口をあけて竹かごに中の物を入れ、梯子のなかほどに細縄をはり、鄭翔虎たちが待つ場所に帰っていった。

基隆の方から爆発音が聞こえた。

「仕かけよう」
本郷武蔵が火矢を放った。

近くの竹林から切りとった竹で作った即席の弓矢であったが、

「武蔵、あいかわらずいい腕だな」
と山田信政が話しかけると、武蔵はニヤッと笑った

「弘法筆を選ばず、じゃ」

みごとに射こまれた火矢は薪につきささり、仕込まれていた発煙薬に引火していった。
煙にあわてて家から出てきた百連壇が、細縄に足をからませると、梯子の下の竹かごがたおれて蝮が噴出してきた。

「ギャッ」
「蝮が蝮にやられているぜ…」
と誰かがつぶやいた。

激闘が始まった。

青龍刀を持った頭立(かしらだ)った男には、武蔵が対峙した。

「アイヤーッ」
という気合とともに、男は数歩で武蔵の頭ほどに跳躍し、蹴りを見まってきた。
かわされることを見こしていた男は、着地すると同時に振り返りざまに青龍刀を横なぎに回してきた。

武蔵は、その場にかがんで頭上に青龍刀をかわした。武蔵が飛びさがることを予想して二の手を送ろうと構えていた男は、一瞬武蔵の姿を見失ってしまった。

武蔵はそのかっこうから、男より高く跳躍していたのだ。武蔵は剛剣同田(どうた)貫(ぬき)を背なかをたたくほどに振りかぶり、気合とともに男の頭に一撃をくわえた。

「チェースト!」

ひるんだ男は青龍刀で受けたが、青龍刀は両断されて男は胸近くまで切りわられていた。男は声も発せず血しぶきをあげてドウッと倒れこんだのであった。

隣では、短槍を構えた山田信政が、戟(げき)を持つ男を相手にしていた。
男は両手に持つ戟を小きざみに出し引きしていたが、

「ホイッ」
という奇妙な気合とともに、いきなり片手を離して戟の先を伸ばして信政の首をねらってきた。

信政はわずかに顔をふり、軽くケラ首を叩いて戟を横に流し、短槍をくるりと回転して男の腰を石突で突いた。

男は倒れこみながらふりむいて、戟を投げつけてきた。

信政はたやすくさけると、逆に男目がけて短槍を投げたのである。
ねらいたがわず、男の腹部に槍の先端部が吸いこまれていった。

「キューッ」
といううめき声を残して男は絶命した。

直剣を振りかざす男に向かって、今井壮九は鎖鎌を両手にしていた。

男は直剣を、数十の剣先にも見えるほどのすさまじい速さでくり出してきた。
壮九は、やつぎばやにくりだされる直剣の剣先を、両手に張った鎖でたくみに受けてはそらしていたが、しばらくすると一気に二間(約三.六メートル)ほども飛びさがった。

壮九は目をつむると、剣が巻き起こす風の音に聞き入った。
そして一定の律動(リズム)があることを聞きとると、次にくり出される剣先が来る場所に分銅を投げた。見事に直剣をからめると一気に鎖を引きよせた。

壮九の力にさからって鎖が巻き付いた直剣を持っていた男は、

「ハイーッ」
という声とともに壮九に向けて直剣を手ばなし、同時に腰の短剣を壮九の顔に投げつけてきたのである。

壮九は首をひねってかわすと、鎖にまきとられた直剣を男の首筋にまわした。
自分の直剣を受けた男の首は、ふしぎそうな表情をしてコロリと落ちた。

三下は翔虎とその配下の餌食になっていった…。

半刻(約一時間)もすると、ねぐらにいた百連壇一味は一人も残さず始末されていた。
そこに、ふたたび行者に伴われた竜平が現われ、

「やがて百連壇の幹部たちが来ます。始末して頂けまいか、とのことです」

「かしこまって候(そうろう)」
と武蔵たちは不敵な笑いを浮かべて、通りかかった五人の男を簡単に始末した。

「手ごたえがない奴らだったの…」

武蔵たちは珠光村の捜索を始めた。
翔虎が、いちばん大きな屋敷の奥にある蔵の錠をこじあけると叫んだ。

「こいつはすげえっ、色んな財宝が…、日本の千両箱も何十箱もあるぞ。何やら書きつけも…、福建省巡撫(ふっけんしょうじゅんぶ)・超笛統(ちょうてきとう)が受けとった賄賂の領収書の写しもある」
目ぼしい物をすべて運び出し始めた。

「皆さん来て下され」

奥の離れを捜索していた壮九の声がした。
幾つかのかまどと、大小十幾つの鍋が整然とおかれた、二十坪(約六六平方メートル)ほどの屋根つきの中庭があった。

さらに、中庭に面した崖には岩をくりぬいた蔵があり、天九牌がビッシリと詰めこまれた木箱と、油紙の袋に密封された阿片が詰まった木箱が整然と積み上げられていた。その量は膨大であった。

武蔵は、
「この木箱のなかの袋の阿片を、遠くの海に捨ててきてもらえますまいか」
と行者に依頼して、天九牌に目をやった。

「この天九牌の根付は銅板や象牙で作られているのう…、ま、百連壇の残党をおびき出す餌には使えそうだ。この木箱は湿気を断つのにすぐれているゆえ、火薬を詰めるのに使えよう」

天九牌.png
天九牌

翔吉たちが珠光村の前で合流した。
珠光村の一行とは、ここで別れることになる。

皆が小休止しているなか、翔吉は、翔虎と珠光村の村長の息子を、少し離れた山中に誘った。三人で商談を始めた。

「この木と草は、ここではなんの価値もないだろうが、日本では、老山白檀(ろうざんびゃくだん)と言われる香木と、高貴薬(こうきやく)の朝鮮人参だ。どうだ、一枚かまないか?
珠光村の皆さんに採集してもらい、天竺(てんじく)からということで鄭氏党が長崎に運んでくれ。白檀を運ぶのには普通の十分の一の手間で済む。朝鮮人参は運ぶのにかさばらないうえに高価で取引できる。大もうけできるぜ、もうけは三等分でどうだ?」

「乗った。これで軍資金が豊かになる」

「これで生活が楽になります。もうけは近隣の他の部族にも分けたいと思います」
この後の連絡は鄭氏党が仲介することで、稀草類の商談(レアハーブ・ビジネス)は成立した。

小休止が終わると、翔吉たちは珠光村一行と、万感の思いをこめて別れていった。

「無事にお帰りになるように日夜いのっております」
との言葉を背に受けて…。

それらを、百連壇の関白海(かんはくかい)たちが山中に身を隠して見おろしていた。

「何やら気がかりで、手下と服と馬をかえたが命びろいしたのう。ここは手を出さず、後日仕返しだ!」

その日の夜半、百連壇の手下に案内された海賊幹部が百連壇幹部と合流した。
男たちは、りふじん堂や鄭氏党に対する報復の手当てについて談合して、あとは百連壇の配下達にまかせて、快速船を先発させることにした。

鶴港を捕捉して財宝や子供たちを奪い返し、後続する髑髏(どくろ)号と合流したうえで長崎に攻撃を仕かける、という手はずをととのえたのだ。
続く
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posted by ぷんぷん at 18:38| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする