2020年07月28日

三 締めつけの兆し…

三 締めつけの兆し…


ある夜、吉保の屋敷の座敷の庭先に、黒鍬頭(くろくわがしら)の小屋狂兵衛(こやきょうべえ)がうずくまる姿があった。

黒鍬衆は、本来若年寄が支配する組織であり、城中の力仕事などの雑用をこなす、最下級の御家人身分の者たちである。が、綱吉の愛妾(あいしょう)お伝(でん)が黒鍬衆の娘であったために鼻息が荒くなり、この頃では一目おかれる集団となっている。

狂兵衛はお伝の腹違いの弟で、吉保は綱吉の許しを得て黒鍬衆の中から、特に俊敏でかつ凶暴な者を選び出させ、私的に使っている。
そして、城中はもちろん、江戸市中の動きをさぐらせていた…。


「月のご報告にまいりました。
御政道に批判的な仕世堂と申す読売屋と、貝穀屋なる料理屋の二つの店に関して、気になることがございます」

「申せ」

「五月の一連の事件が起こって例の宝船が現われるまで、仕世堂なる読売屋主人の善八なる者を除いて、店の者が不在であった気配があります。
宝船と前後して皆が江戸にもどってきたことや、連続して二つの店から気になる品々が売りだされたことなどを考えあわせますと…」

「その品とはなんじゃ」

「仕世堂から、『桃太郎奇談』なるお伽草紙がただ同然で売り出され、その内容がちと気になりますのでお持ちしました。あとでご一読たまわりますよう」
と、一冊の本を差し出した。

「貝穀屋という、薬種もあつかう薬膳料理屋から『李夫人』なる高級香と『珠光人参』なる朝鮮人参を、破格の安値で売り出し始めました。庶民には無料で配っているそうです。いずれも長崎口の輸入品でございます。
さらに気になるのは、善八の店の奥の蔵にしばらく背の高い男が暮らしていたそうです。どうも異人のような雰囲気がございましたそうな。
南町の能勢様に連れられて筆頭ご老中様の下屋敷をおとずれた、と言う噂もあります」
吉保は腕を組んで考えた。そして続けた。

「ところで、先ごろ宝船が持ち帰った小判の使い道の件で、読売屋から御政道を批判するかのような記事が出されたとか」

「いつも先頭きって御政道に口をはさむ仕世堂が、この記事についてのみは鳴りを潜めているのが不審でありますが。この件についてはこれ以上はなんとも…」

「うむ、わかった」
狂兵衛はしずかに消えた。

吉保は部屋に入り、冊子を一読すると投げすてた。

「なんじゃこの内容は、公儀を愚弄しておる。そのうえ南蛮人と清国人がからんでおるような、もしそうならゆゆしきことじゃ…」

吉保は腕を組んで考えこんでいたが、やおら無気味な笑いを浮かべ、

「使えるやもしれぬな…、一連のことに筆頭老中と能勢の影がちらついておる」
吉保が手をたたくと、用人が現われた…。


「こいつは面白い」
役所から帰宅した北町奉行川口宗恒(むねつね)は、煎餅をかじりながら桃太郎奇談を読んでいた。
そこに使いがきた。

「川口殿は町奉行であられるゆえ、町衆の事情にも精通しておられような。近頃はやりの桃太郎奇談なるお伽草子と、李夫人なる香木、珠光人参なる高貴薬のことはご存知かな」

「もちろんでございます。お伽草紙は一読しました。なかなかに笑えまするぞ。今一度読み返しておるところです。
ご興味があれば明日にもご老中にお届いたします。ただ、李夫人香、珠光人参は話のみしか知りませぬ」
と、にこやかに答えた。

吉保は一喝した。

「たわけ!その方にはこの物語は、ご公儀を嘲笑する内容であると見ぬけぬか!」

それでは登場人物は…、

(話の『北さま』は俺?『南さま』はあのくそいましい能勢頼相?そして、どうしようもなくアホな殿さまは…、とても口には出せない…)

「申し訳ありませぬ。すぐにしらべます」

「その方は先年まで長崎奉行をつとめておったな。最近の長崎での異国物の取引状況もしらべてわしにしらせよ」


数日後、宗恒は報告した。

「二つの店の善八を除く者どもは出張と称し、機を一にして長崎に向かっておりました」

「うむ。して皆の手形はどのようになっておる。江戸を離れておった期間は」

「すべての者の道中手形は能勢殿の名で発行されておりました。そして皆が宝船が現われるまで、江戸を留守にしておりました。
長崎では、三ヶ月ほど前に、多くの香木と朝鮮人参が取引された痕跡があるようです。それと、長崎の両替屋から莫大な額の為替が小口に分けて江戸に送られたとの噂がありますが、これもしかとした証拠は残っておりませぬ。
ところで、五月に長崎から得体の知れない唐船が出港したそうです。何者が乗っていたかを明らかにする痕跡は残されておりませぬ」

「うむ、苦労をかけたの。このたびのその方の働きはわすれぬ」
との言葉を頭上で受けた宗恒は、ホッとして帰っていった。

「狂兵衛、聞いておったか」
と、声をかけると、庭奥の闇から小屋狂兵衛の姿がにじみ出た。

「はっ」

「しかし、何もこれといった証拠は残っておらぬようじゃ。
このうえは狂兵衛、二つの店を見張れ。このたびの宝船が持ち帰った物とは比べものにならぬ小判が、二つの店のどこかにあるはずじゃ。行け」

「はっ」

狂兵衛の姿が消えると、吉保は強くつぶやいた。

「大枚の小判を見つけ出して抜け荷と鎖国やぶりの証拠となし、それを仕組んだ者として、筆頭老中と能勢に腹を詰めさせてやる。
このたびのことに関わった町人は根だやしにせねば御政道が立ちゆかぬ。町人の分際でこざかしい者たちじゃ」

そのつぶやきを、中の蔵の第三の部屋で行者と善八が聞いていた。

善八はしばらくぶりに頼相の屋敷をたずねた。

「うむ、何か打開策を考えねば、その方たちが持ち帰ったお宝をまたもまったくな浪費にまわされるおそれがある。不甲斐ないわしを許せ」

「お奉行様、柳沢様にとって弱みになるようなことや、噂などはございませぬか。なんとか反撃に出たいと思います。何とぞお知恵をおかし頂きますよう」
と、正面から頼相の顔をうかがった。

「うむ…、他聞をはばかる故、その方のみにしておいてもらいたいが、先ごろお上が、ご寵愛あつい柳沢様にご自分の側室であられる染子様をおさげわたしになったのじゃが、染子様は今でもお上のご寝所にも呼ばれているとのことじゃ。
そして柳沢様は、あろうことか染子様をとおして、お犬小屋経費を上納することをかたに、甲斐に百万石ともいわれる領地拝領を願われ、お上も了承されたという噂が城中で密かにささやかれている。
お上のご寝所の乱れについては、このさい目をつむるとしても、理に合わぬ藩地(はんち)のやりとりは政の乱れの大もとである。水戸のご隠居光圀様は、この噂をお聞きになるや顔を真っ赤にして『柳沢に切腹を申し付け、お上の目を覚まさねばならぬ』と息まいておられるとのことじゃ」

「いまのお話を裏付けるような物はございますか」

「噂では、お上の花押(かおう)(サイン)が記された覚書が、染子様にわたされたとのことじゃ」

「まことにためになるお話、ありがとうございます」
と、善八は深々と頭をさげて能勢邸を辞した。


夕闇がただよい始めた頃、駒込にある、近頃柳沢吉保が造営した六義園の裏門にたたずむ善八の姿があった。

ややあって、一人の姿がにじみ出てきた。

「一番立派な奥座敷の文箱に、こんな物があった」

うす明かりでその文を一読すると、善八は不敵な笑みをうかべた。
「ありがとうございます、行者様。どうやら最強の武器を手にすることができたようです」
続く
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2020年07月21日

二 不穏な動き?

二 不穏な動き?


三奉行所会議で、北町奉行川口宗恒は七福丸が持ち帰った小判の使い道を談合した。
宗恒としては、珍しくまともな上奏書を作成して老中会議で報告した。

「このたび、子どもたちの神隠しがとかれた喜びを、江戸市中の皆で分かち合うために分配する方法を町年寄に検討させるべきである。ただし、現金給付は人びとを怠惰にさせるのみであるゆえ、まかりならぬこととする」

筆頭老中はわが意を得たりとばかりにとりまとめた。

「まことに妥当な意見である。この線でお上のご決済を得ようと思う。柳沢殿、お上のご都合をお聞きしてくれぬか」
と、昨年お側用人にして、老中格となっていた柳沢吉保に依頼した。

「お上は風邪をめされておられます。一定の時が来ましたならば、お上のご機嫌が一定のかんばしきときに奏上いたします」

御用部屋を出ると、吉保はつぶやいた。

「正論で事を進めては筆頭老中へのお上の信頼が深まるばかりじゃ。このたびの騒ぎを使い、老中をけ落とせぬものか…」


数日後、綱吉が喜ぶ内容に変えて報告した吉保が、老中に声をかけた。

「ご老中、このあいだの小判の使い道の件でございますが、お上のご意向はお犬小屋の維持経費に当てよ、ということでございました。もはや上申するに及ばずとのお言葉です。老中の名でお触れを出せとのことです」

筆頭老中は思わず、柳沢吉保をにらみつけ、翌日から病と称して登城しなくなった…。

行者の術で様子を知った善八は、大手読売屋にその話を流した。
どの読売も、使い道を曲げたのは柳沢吉保であると読みとれるような筆の運びとなっていた。
翌朝から町中で読売が売り出された。宝船が持ち帰った小判の使い道が明らかになると、人々は大きく落胆した。

わきたっていた江戸の町は急速に白けていった…。いわゆる『ぬか喜び』に終わったのである。
ただ仕世堂のみは、この件についての読売を出さなかった…。


神隠し騒動がひとまずしずまってきた八月になると、江戸の町に少しではあるが活気が見え始めた。

仕世堂が、京の八文字屋から江戸における版権をゆずりうけて刊行した、お伽草紙『桃太郎奇談(ももたろうきだん)』が超売筋(ベストセラー)なっていた。

紙代しかとらず、生活が苦しい者には無料で配布されたお伽草紙の内容に、人びとは溜飲をさげたのである。

そして貝穀屋(かいこくや)から、これまでになく良くきく朝鮮人参『珠光人参(じゅこうにんじん)』が善意の医者にごく安値で渡され、高級香『李夫人(りふじん)』は誰にも無料で配布された。

慶順はじめ真面目に庶民の病気をみている町医は腕を振るって、病に苦しむ人々を治療した。そして、李夫人は、すてばちになりそうな人びとの心を、少しずつだが穏やかにしていった…。

なんらの恩恵も受けることができなかった江戸町民へのささやかな、そして少しでも明るい話題を、というりふじん堂の心意気であった…。

江戸に帰った数日後の深夜、能勢に連れられたヨハネスが密かに筆頭老中邸をおとずれた。

「このたびのりふじん堂一党の皆様のご活躍は、わが国にとっても大きな利益をもたらしました。改めてお礼を申し上げます」

「南町の能勢からあらましは聞いており申す。こちらこそまことに世話になった。カピタン殿によしなにお伝え下され」

「ところで、かの西班牙(スペイン)という国の今の王は、少々狂気をやどしておりまして、いわゆるアブナイ国であります。そして、清国もナカナカ…。
そこで、たとえば『日本、清国、西班牙国とわが阿蘭陀(オランダ)国の四ヶ国協議』なる談合組織を作り、今後の西班牙国や清国の暴走をおさえる、ということはできませぬか」
と、ヨハネスが提案した。

筆頭老中はしばらく目をつむっていたが、目を開くと頭をさげた。

「恐れ多いことではあるが、今のお上と、お上が信頼する今の幕閣では、わが国の鎖国令を超える決断は不可能であると言わざるを得ぬ。まことに申しわけござらぬ…」

体面を終えた頼相とヨハネスから話しを聞いた善八も、頭を下げざるを得なかった。

「まことに申しわけありませぬ。このたびのご足労には厚くお礼申し上げます」

「いやいや、皆様のこととこのたびの大冒険は、生涯忘れ得ないことでしょう。
それと兄をとりもどして頂きました。これだけでもお国の安全にご協力することは、わが国のつとめであります。さて、行者殿、長崎へ連れもどして頂けますまいか。カピタンが交代する時期がせまっておりますゆえ」

さびしげな行者に手をにぎられたヨハネスが飛び立っていった…。

ややあって行者がもどってくると、善八は頼んだ。

「行者様、お上のご寵愛厚い柳沢吉保様の様子、あのなんとかの術で探りたいのですが」

「独言伝達(ツブヤキ知ろう)の術のことかの、イイヨ…」
続く

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2020年07月14日

第九章 江戸凱旋

第九章 江戸凱旋



『小さな角』のつぶやき…

やっと困難な旅を終えて帰ることができたようだな…、ヨカッタ、ヨカッタ。
『泡酒(ビール)をマーワセー、朝まで飲もう、……、ア、ドンドン!』と大杯(ジョッキ)をみがき始めたところなのに、また新たな難儀が始まるのか?
面倒はつきないもんだ…。

でも、もう少しで一件落着(ハッピーエンド)のめどがつくんじゃないか?
気をぬかずにな!



一 わき立つ人々!


水平線に夕日がかかってきた。
その美しさは、言葉に表すことができないほどの美しさだった。
八重根浜に打ち寄せる波がこれまでの戦いでささくれ立った皆の心を癒すのだった…。

夕日が隠れる頃、善八が行者とともに現れた。そして、江戸の状況をつたえた。

「熱田からの早文のあと、ふっつりとつなぎがなくなり心配しておりましたが、安心しました。いま頃は能勢様にも様子がつたわっておりましょう」
数日後、楽市丸は伊豆大島に向かって帆を上げた。

ひと足さきに、仕世堂(しせいどう)にもどってきた善八は、絵図の上の七つの寺社に印をつけると、七種類の護符を出入りの絵師に注文し、いくつかの文を認(したた)めた。

つぎに、江戸に待機していた紀伊国屋文左衛門にいくつか頼みごとをしたあと、南町奉行能勢頼相(よりすけ)邸をたずねて談合した。

翌日の夜半、護符と文を持った行者が夜空に飛び立っていった。
そして七つの寺社をめぐり、住職や宮司の枕元に立ち、護符をおいては夢枕囁き(マインドコントロール)の術をかけていった。

その間善八は、お伽草子を書きおろしていたが、行者が戻ってくると京に飛び立っていった…。

楽市丸は大島の波浮(はぶ)港に碇を投げた。

そこには、七福神を乗せた宝船を帆に描いた紀伊国屋の『七福丸』と、伊勢屋籐衛門の十艘ほどの押送船(おしおくりぶね)待っていた。

桃太郎奇譚 七福神.jpg


宗兵衛は清四に結び文を書かせた。

「おいらたちはひとあしさきにえどにかえります。おせわになりました。せいじ」


江戸ではすでに十日前に七夕が終わり、お盆もあと一日を残すのみだったが、今年は七つの寺社で特別の行事が予定されていた。

神隠しにあった子供たちの帰還を祈る祈祷がとり行われることになったのだ。
寺社の住職と宮司に、天啓があったということである。

朝の日ざしが堂内を満たし始める頃、結界の上から何やら舞いおりてきた。

日本橋の松島神社では大黒天、末廣(すえひろ)神社では毘沙門天、小網(こあみ)神社では弁財天の護符が…、深川の富岡八幡宮では恵比寿、心(しん)行寺(ぎょうじ)では福禄寿、深川神明宮では寿老人、深川稲荷神社では布袋の護符が…。

「オーッ、七福神のお力じゃ!」

人びとの声が寺社内に響くと、結界の白布がとり除かれ、かどわかされた子供たちが並んで寝ていた…。

それを天空で見ていた行者は、今回のミッションにおける七福神評議会からの最高評価を確信した。

一方七福神は、人びとから受ける尊敬と人気が不動のものになったと確信し、

「好業績(グッジョブ)!」
と、言いあいハイタッチを繰り返していた。

これがきっかけで七福神参りが定着した(ノカモシレナイ…)。

「お奉行、大変なことが起こりました。神隠しにあった三十人の子どもたちが帰ってきたそうです!親元の近くにある七つの寺社に今朝がた…。
それと、築地沖に宝船が…、多くの小判を積んだ宝船が参ったそうです!」

北町奉行川口宗恒(むねつね)はたたき起こされた。
今月の月番(つきばん)町奉行所は北町である。南北両奉行所は、一月ごとに現場勤務である月番と内勤を交代している。

江戸の町は、久しぶりの明るい話に『十日遅れの七夕だ!』と喜びでわきかえっていた。
全国の飢饉は絶えず、特に今年は奥羽を中心とした冷害によるすさまじい飢饉が始まっていたのである。

後に『元禄の大飢饉』と呼ばれることになる。

飢饉による物価高で、江戸の人びとは青息吐息のありさまである。
このような時だったため、江戸市中はわきにわいたのである。
人々をへたに制止しようものなら、奉行所もボコボコにされそうな熱気を帯びていた。

北町奉行川口宗恒の供をして築地に駆け付けた同心山影琢磨が、皆にただした。

「一体どういうことじゃ!誰の船じゃ!」

すると、一人の男が進み出た。

「おう紀伊国屋か。その船を質(ただ)しにお奉行が参られた」

「お信じになられないかもしれませんが、伊豆を過ぎたあたりで、船倉に突然!積み上げられた千両箱とその上に寝かされたお子らが現れたのです。
話しを聞くと神隠しにあったと聞くお子たちのようで、腹を空かせて疲れているようでした。それで、食事を与えて寝かしておいたのですが…。
昨夜再び様子をうかがいにまいりますと、この結び文を残してお子らが消えていたのです。ただいま結び文と千両箱をお奉行様におとどけしようと、荷揚げを急いでいたところでございます」
と、山車に美々(びび)しく飾って山積みした千両箱を指さした。

「ふざけたことをぬかすと、牢に叩き込むぞ!」
と、詰め寄ろうとする山影琢磨を制して、

「むむ、やはりそうであったか。この川口に対する神の深い信頼がなせる、まことに目出たい話じゃ。取り調べは終了した。山影、千両箱を奉行所に運べ」
と、宗恒はそそくさともどっていった。

「これで良いのかのう…」
と、琢磨は釈然としないまま山車を伴い、北町奉行所に帰っていった。

宗恒がこの次第を筆頭老中に報告すると、筆頭老中は疑うでもなく指示した。

「とりあえず北町が保管せよ。使い道については寺社、勘定、町の三奉行所評定で案を作り、その方が明後日の老中評定の場で報告せよ」

七福丸が運んできたお宝は、台湾から長崎に持ち帰った財宝を換金した千両箱のほんの一部である。
財宝のほとんどは、目立たないように売却するよう長崎の大黒屋小兵衛に依頼して、小判に換金してもらっていたのである。

その総額は十万両にものぼるものだった。そのうちの一万両のみを七福丸に積みこんで、残り九万両を為替(かわせ)で江戸に送金していたのである。

為替は小口にして色んな経路を複雑に経由させ、懇意の伊勢屋籐衛門方に送るように依頼していた。

九万両の小判は、行者の術でりふじん堂の中の蔵の第三の部屋にひそかに納められていた。ちなみに、九十の千両箱は相当にかさばるが、なにせ第三の部屋は伸びちぢみ自在である…。
続く
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posted by ぷんぷん at 10:15| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする