2020年01月02日

三 八人の英雄登場!

弥勒菩薩の目をかわすように時空を超えては、人里離れたあちこちの山に場所をかえて眠りにつくことをくり返してきた。
そして千年近く、天上界と人間界、過去と未来を行ったり来たりしている間に、だいぶボケが進んできた…。

ところがなんと、この千年の時に伴う適当なボケが、鬼神(きじん)使いと恐れられた行者を、ただの涙もろい爺ぃに変身させることになったのである。

人びとの悲しみにつながる事件に出くわすと、緩んだ涙腺から大粒の涙があふれるようになってきて、近ごろは積極的に世直しを進める姿勢さえ垣間見えるようになってきている。
とは言いながら、その怠惰な本性は完全にはなおらず、みずから手をくだすのは面倒くさくなってきている…。

そんなある日、その頭のテッペンに灯が輝き、良き思案(グッドアイデア)が閃いた(ような気がした)。

「そうじゃ、今まで手をかしてきた英雄たちの子孫がいるではないか…。

それとなくわしの仕事を請け負わせよう(ナリフリ構わず下請けにして押し付けよう)!」


桃太郎 行者役子角.jpg




三 八人の英雄登場!


行者は、関ヶ原合戦が終わって十年後の慶長十五年(一六一〇年)の紀伊((和歌山))・九度山(くどさん)に飛んだ。
そして蟄居中である真田左衛門佐(さえもんのすけ)幸村(ゆきむら)の夢枕に立ち(勝手に脳に侵入し)、ボソボソと唆(そそのか)した。

「余は弥勒菩薩につかわされた偉あい行者である。その実力は神にもたとえられるほどの者なのだ」
と、まず自己宣伝(じこPR)から始めた。

「君は英雄だ。大変な活躍をしたことは承知しておる。しかし、真の英雄になるには、時代を超えて志を受けつぐ者たちを育て、永遠の名声を残すことこそ重要なのだっ!ウンヌンカンヌン…」

そして、八丈島・八重根浜(はちじょうじま・やえねはま)の光景を幸村の脳裏に映し出して、
「この浜にいることを念じよ。この浜にいる自分を思い描け。時を超えた真の英雄となるための道標が明らかにされるであろう…」
と言って…消えた。

幸村は目がさめてつぶやいた。

「なんだ…、爽やかさの対極にある、この寝ざめの気分の悪さは…」
夢枕に立った者は、何やら訳ノワカラン、神などとはまるで無縁な品の無さがただよっていた。だが山流(やまなが)し状態でどうせ閑な幸村は夢のとおりに念じてみた。

…驚いた!

行者は、さらに各地・各時代の七人の夢枕に立っては同じことをくり返した。
七つの『!』が加えられた。

なんと宇喜多秀家が配(はい)流(る)されている八丈島に、八人が集結したのである。

実は、行者の夢枕囁き(マインドコントロール)の術と超時空移動(タイムトラベル)の術の合わせ技だったのだが…。

集結したのは、時の権力の横暴に激昂して、後先考えることなく時代を画する戦いに参戦した八人の英雄であった。

すなわち、オッサン八人衆!

朝廷派遣の源頼義に、優勢な戦いを挑んだ安倍(あべの)貞任(さだとう)とともに戦った弟、安倍宗任(むねとう)。五〇二年まえに七十六歳で死没していたが、時空(じくう)を超えて五十五歳の身で参上。

豊臣秀吉に反抗し呂宋(ルソン(フィリピン))に雄飛した納屋(なや)(呂宋)助左衛門(すけざえもん)。このとき四十五歳で参上。

宇喜多秀家。関ヶ原合戦で西軍の中核として家康をおびやかした。このとき三十八歳。

同じく西軍の雄として東軍と戦った小西行長(こにしゆきなが)。十年まえに四十五歳で死没していたが、時空を超え四十歳の身で参上。

関ヶ原合戦に連携した会津((福島)四境(しきょう))戦争にはせ参じた車丹波守斯忠(くるまたんばのかみつなただ)の子、車善七(くるまぜんしち)。このとき五十五歳で参上。

関ヶ原合戦から大坂の陣にかけて、徳川家康に敢然と戦いを挑んだ真田左衛門佐幸村。このとき四十三歳。

唐(から(中国))の明朝復興のため清朝と壮絶に戦うことになる、国姓爺(こくせんや)鄭成功(ていせいこう)の弟、田川七左衛門。このとき生誕十八年まえだが、時空を超えて四十五歳の身で参上。

薩摩島津家の進攻に敢然と抵抗した琉球国尚寧王(しょうねいおう)の腹心、謝名親方(じゃな うぇーかた)。このとき六十一歳で参上。


八人の英雄は、世直しについて激論をかわした。

英雄たちは好きかってに自分の思いのたけをわめきあい、まるで建設的な意見の集約は望めないように思えた。

しかし、酒が入ってからオッサン達は息切れ激しくなり、その合い間、合い間に他の者たちの言うことを聞き始めると、八人のそれぞれのわがままな郷愁(ノスタルジア)の方向性は一致していることがわかったのだ。

なんのことはない。皆は、

「権威にこびず世直しを行う『超法規有志組織(ちょうほうきゆうしそしき)』が必要である!その組織にはわが子孫が適任である!」

という同じことを主張していたのだが、人の言うことは全く聞かないという、共通のわがまま体質であるだけのことであった…。

とにかく皆は、主張と志を遺訓として子孫につたえ、子々孫々までおよぶ(むりやり拘束する)世直し組織、『権威にたよらず世の理不尽をゆるさない者達同盟!略称、世のなか仕分け隊!』なるものを創ることで一致した。

相〜当くさい組織の名前付け(ネーミング)だが、そんなことにはおかまいなしのオッサン達は、その同盟の執念に近い概念(コンセプト)までさだめた。

「権力に目を向けることなく、世のため人のため、身を粉にして働くべし。
その働きによる栄華を求めるなど、もっての外と心得るべし。
神仏も許したもうと信ずる時は、敢然として臆(おく)することなかれ。断然実行せよ。

炎進(ファイアーッ)!」

超空間からこの宴を見ていた行者は、ここで中空から八枚の紙を撒いた。

この紙は行者が修験道を修業した大和国葛城山の楮(こうぞ)から作った物であり、時空を超えてその所在を追うことができる。

行者は、八枚の紙が時とともに江戸に集まってくるように在所者上京(おのぼりさん)の術をかけた。術をかけた物を持つ者が自らは意識することなく江戸に向かってくるという術であり、呪文を唱えると、今どこにいるかを知ることもできるのだ。

紙の冒頭には『遺訓』と記されていた。

オッサン達は盛りあがり、都合よく空から降ってきた不自然さにはまったく気にもとめず、紙に遺訓を書きちらした。
そして、盛りあがったあまり地酒を飲みすぎて、朝までゲロを吐く始末であったようである…。


その頃、伊豆の洞窟で惰眠していた、品のない音に敏感に反応する特異体質の行者は、その胆汁が混じる音に目覚め、八重根浜をのぞいてみた。
そして八人が酔っぱらって投げ出していた、子孫に残した八枚の遺訓書を手に取ると、その末尾に、そ〜っと…、

(世が乱れる兆しが見えた時、わが子孫のもとに荘厳な雰囲気をまとった天からの使い、行者・役小角という者が現われ、そなた達を助けるであろう…)
と書き加えた。

行者は、ゴーゴーと鼾をかいて爆睡している八人のふところに遺訓書を差しこんで、それぞれの往生がせまる時点に連れ帰った。

その後、
江戸のとある店の蔵のなかに異空間隠遁(ひきこもり)の術を使い勝手に部屋をこしらえると、孔雀明王経(くじゃくみょうおうきょう)を唱え在所者上京(おのぼりさん)の術で、遺訓書の動きを確かめ始めた。

北は奥州、南は琉球までの範囲にその生を受け遺訓書を授けられた八人の英雄の子孫は、江戸に集まるには八十年近くの時が必要であることがわかった。

そこで八十年の時を超えて江戸の各町に暮らす八人の英雄の子孫に、この蔵の周りに集まるようにとの夢枕囁き(マインドコントロール)の術をかけ終えた。

その後ニンマリとした行者は、また惰眠をむさぼっていた…。


そして今、八人の英雄の談合後八十数年経って、弥勒菩薩からたたき起こされた、ということになる。


「クソッ、ばれないと思ったのに…」
行者は永い眠りからさまされた。と同時に、
「ブッ!」
とやってしまった。

顔をしかめた弥勒菩薩は、行者に一撃をあびせようと力んだ。その瞬間、
「ブブッ!」
と倍返しでやってしまった。頬を染めた弥勒菩薩はそそくさと姿を消した。
が、その木の実のような眼で熱きまなざし(アイコンタクト)をすることだけは忘れなかった。

(わかってるな、そろそろ働け!)
と弥勒菩薩の眼は言っていた。

行者は、いまどこに寝ていたのかを思い出すためにしばらく腕を組んでいた。
そして、いまは元禄八年(一六九五年)、徳川綱吉の治世下であり、江戸日本橋の蔵の中に目をさましたことを、やっと思い出した。

が、とにかく自分のと、弥勒菩薩との強烈な臭いに耐えかね、異空間に作った部屋から脱出することにした。
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posted by ぷんぷん at 18:56| Comment(2) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
絶好調ですね。

南総里見八犬士ならぬ、八勇士。
時代も土地、多彩な勇者たち。
進め!八勇士。
Posted by 冬至魚 at 2020年01月03日 16:22


冬至魚さん

いつもコメントいただき感謝です。

おほめの言葉だけでなく、何か気になる点がありましたら遠慮なくご指摘ください!

それでは引き続きお楽しみください。

Posted by ぷんぷん at 2020年01月04日 09:19
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