2020年01月28日

三 百連壇(びゃくれんだん)の影?

三 百連壇の影?

唐、朝鮮や南蛮の国々との貿易によって栄えてきた長崎は、この頃は町人が自ら治める八十もの町がにぎわう、江戸幕府唯一の外国へ開かれた貿易都市となっていた。南蛮や唐の風俗がいたる所に見られ、なんともにぎやかな港町である。
あちらでは、唐人笛(チャルメラ)と銅鑼(ドラ)の音(ね)につつまれた唐人軽業一座の大道芸がくりひろげられ、こちらでは、南蛮の香りがするお菓子の屋台が軒を連ねている。

長崎・出島.png

お京と翔吉は、料理に使う薬餌(やくじ)の仕入れに来ていた。
取引が終わって日が傾き始める中、宿に帰るお京と翔吉は、唐人の女が取引相手の大黒屋の息子をからくり小屋に誘おうとしている光景に出くわした。

二人は、少し離れた店の軒下に目つきの冷たい男がいるのを目にした。

「もう遅いですから私たちがお店までお送りしましょう」
と、お京は男を無視して小腰をかがめ、大黒屋の息子を連れ帰った。

翔吉は、背なかに刺すような視線を感じた。

男たちが消えてしばらくすると、翔吉の長崎での片腕・竜平が現われ、耳うちして離れていった。

「あの冷たい目つきの男は、密入国してきた唐人裏稼業集団(チャイニーズマフィア)の長崎束ねをまかされている幹部だそうです。この組織は大店の子供をかどわかしているという噂がたっていますぜ」

息子を送っていくと大黒屋小兵衛は喜び、二人を奥座敷にまねき、

「近頃長崎でも、神隠しと言われながら子供たちが消えているので心配していたところです。お礼をしとうございます」
と、手に入るほどの丸い金属の道具を差し出した。

それは、近ごろ出島の阿蘭陀(オランダ)人商館長(カピタン)から大金で譲り受けた、径一寸五分(五センチメートル弱)ほどの懐中時計であった。ネジをまくと正確に時をきざむ最新式の物である。

出島は葡萄牙(ポルトガル)商人を管理する目的で、長崎湾に突きだして四千坪(約一三〇〇〇平方メートル)を埋めたてて作られた島である。今は、阿蘭陀東印度会社の商館がたち並んでいる。

この頃は、貿易管理のために、三人の長崎奉行が一年交代で江戸と長崎を行き来している。

大黒屋が差し出した時計を見たお京は、この機会に商館長と馴染みになっておこうと考えた。

「これは高価な物でございましょう、無料で頂くわけには…、お代として五十両をお受け頂きとうございます。それと厚かましゅうございますが、出島の商館長様にごあいさつさせて頂ければ嬉しいのですが」

「お安い御用です」


翌日、大黒屋小兵衛は商館長のヘンドリック・ディックマンと、商館付医官であるヨハネス・シックスに紹介した。二人とも唐語、日本語に堪能である。

ヘンドリックは五十くらいの、義侠に富む高潔な行政官である。

医官のヨハネス・シックスは陽気な二十四、五の男である。新聞記者の兄、フレデリック・シックスの捜索も兼ねて出島の医官を希望したとのことである。
新聞記者であるフレデリックは東亜細亜事情をしらべるためにあちこち取材旅行していたが、一年まえから失踪しているそうだ。


二日後の夕刻、竜平がさらに調べたことを報告した。
江戸幕府は今年、長崎の町なかに九千四百坪(約三一〇〇〇三平方メートル)の土地を囲って唐人屋敷を作った。そのとき翔吉は唐人屋敷の長として配下の長老を送りこみ、唐人屋敷内はもちろん、清国と行き来する唐商人までも傘下にしていたのだが、これにもれる集団があったらしい。

その名を、『百連壇(びゃくれんだん)』と言うそうな…。

素性ははっきりしないが、金もうけのためには密貿易や麻薬売買に手を出すことも平気な輩と言われていた。

「連中の仲間をチョイとおどして、あいつらが仲間の印にしている細工を手に入れましたぜ。持ち主は今頃竜宮城で魚の餌になってる頃で…」
と細長い一分(いちぶ)銀ほどの大きさの銅細工を懐からとり出して、翔吉にわたした。

一連の出来事が気になった翔吉は文を認(したた)め、翌朝、小さな竹管を足につけた伝書鳩を空に放った。

江戸の善八はその文を読むと、宗兵衛にわたした。
四角い小物の絵が、材質・色・寸法付きで詳しく描かれてあった。
宗兵衛がつぶやいた。

「あの根付と同じ物が長崎にも…」
「ウム…銅で作られているようだが、形や寸法は太助が持ち帰った物と同じだ。江戸と長崎に、根が一つの百連壇とかいう唐人犯罪者たちが潜りこんでいるらしい…」

続く
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posted by ぷんぷん at 12:22| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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