2020年02月04日

四 立て続けの騒動…

四 立て続けの騒動…

そうこうするうちに、江戸の町にいろんな騒動が起き始めた。
公儀の無責任体制が産んだ人災である、とも見えるのだが…。

いわく…、(ある日の早朝、神田駿河町の両替商の店前に犬の屍骸が捨てられていたそうだ。数日後、男が店に現われ、犬の耳を店の前に放り投げ、法外な金を要求したそうだ。男は浅草の香具師の寅三一家の下っ端らしい…。『総会屋のイヤガラセ?』)

いわく…、(築地の魚河岸には、多くの船で日々魚介類が送られて来るのだが、その中にあやしい船がまぎれこみ、腐った魚を紛れ込ませて鮮魚問屋をあわてさせているそうだ。鮮魚問屋は、そのことを種に寅三からゆすられているらしい…『保健指導無策のピロリ菌?』)。

いわく…、(両国はずれの裏通りに、公儀お目こぼしで獣の肉を食することができる料理屋が開店したそうだ。そしてお広めと称して、『宣伝のために、一句頂けるとうれしいのですが』と、短冊と筆を招待した隠居の爺さんたちにわたしたそうだ。そのうち、腐りかけた犬の肉が料理に混じるようになり、腹をくだす者が出始め、ついには死人まで出たそうだ。後日、隠居たちのもとに寅三一家の男が現われ、法外な金を要求したらしい…。『生肉管理のあいまいな行政指導を突いたオラオラ詐欺?』)

いわく…、(大名おかかえの花形力士が、近頃、闘犬賭博にうつつをぬかし始めたらしい。そして、大名の留守居役や大身旗本の用人までも誘われて夢中になり始めたそうだ。胴元は寅三らしい…。『お相撲さんの博打?』)


そして、もっとも江戸の人々を激怒させ、公儀の無策をなじった犯罪が起き始めた…。

(子供が神隠しに会い始めたそうだ。それも頻繁に…。
神隠しとは言われているが、実は動物をとったり、いじめたりしたというささいなことを言いつのって脅してさらっていく、かどわかしじゃないかと皆が言っている。
大店の子供の親には、お狐様の使いと称する薄ボンヤリとした男が、目をむくような身代金を要求する書付を届けたらしい。御用聞きがその男をとっちめたらしいが、小金で頼まれただけで何も知らなかったらしい。裏で寅三が糸を引いているんじゃないかと囁かれているんだが…。『被害届無視!捜査怠慢!弱腰交渉!教条主義!』)

これら一連の犯罪のすべては、『友愛』を基本とした生類憐みの令を逆手にとった組み立てになっている。

被害者は、生類憐みの令の手前、大っぴらには奉行所に駆け込めないという相克(ジレンマ)に苦しんでいた。
そして、子供が神隠しにあった親たちは、その安否を気遣い大金を支払ったが、子供は帰ってはこなかった…。


ところで寅三とは…。
浅草界隈は江戸有数の盛り場である。この縄張りを仕きれば日々莫大な利益が転がりこむ。そして、無宿者や脛に傷を持つ者が隠れ潜む、かっこうの場所でもある。
近頃は、寅三という元は渡世人で全国を流れ歩いていた男が、奥山を仕きる香具師の元締めにのしあがっていたのだ。

大方の役人は自分たちの砦を守るのには熱心であるが、社会秩序を守り、庶民の生活を向上させるという本来の任務には『無関心』であり、『手抜き』を行い『職務怠慢』と言われても蛙の面に……ンであった。
結果として『未解決』の負の螺旋(スパイラル)から抜け出せない状況が続いていた。


人々は激昂し(イカリマクッ)た!

「理不尽だっ!」

子供がかどわかしにあった親は身を悶えて号泣し、その救済を訴えた。

飢饉が続くなか、これらの騒動のおかげで多くの物の値が上がり、人びとの暮らしはさらに貧しくなっていった。

まさしく人災である。

脈絡のない多くの法令。特に、なんと人間より犬が大事にされる生類憐みの令にいたっては…。
公儀の法令を自分たちの都合に合わせて歪曲し、人々の生活向上に関心を持たない役人…。

仕世堂は、役人の無気力、無策、無関心を糾弾し、一方で様々の犯罪、特に子供かどわかしの犯人に関する情報提供を無料読売で公儀と江戸の士民に喧伝した。

一方、役人の中では珍しくまっとうな南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)は配下に檄をとばした。

「全力をあげて確実な証拠と証人を集めるのだ!寝る間も惜しめ」


そうこうしているうちに、ある夜、北町奉行所定回り同心山影琢磨(やまかげたくま)がつかう御用聞きの長屋にいくつかの犯罪に関わる品とともに投げ文があった。

「寅三一家に関わるたれこみか…、あまり信用もできないが…」
と、琢磨は投げ文の件を奉行に報告した。

が、なんと北町奉行の川口宗恒(かわぐちむねつね)は、
「一網打尽にしろ!」
と、舞いあがってしまった。

宗恒は、もともとご先祖の功績で奉行職についていた、切れ者との噂は一切聞こえてこない奉行である。
親の七光りで湯島聖堂を出ており、自分は絵にかいたような筋目正しい選ばれし者(エリート)なのだと意識している。役人の鑑と言えば言えないこともないが、ようはよくいる勘違いに気づかない人たちの一人であった。

宗恒は配下を指揮して、ものものしく浅草の寅三一家宅に討ち入った。
が、家のなかは静かで、なんとも言えない甘臭(くさ)い煙にいぶされていた。
阿片(あへん)の煙であった…。
そして寅三と一家の者がマグロの燻製のように転がっており、これといった証言も聞き取れない廃人になっていた…。

これらの犯罪を解決できない公儀を非難する人びとの声は、大きくなるばかりであった。
それに対して、大方の幕閣(大臣・官僚)は何もしないくせに、

「何やら、大がかりな犯罪組織が関わっているやに聞いておりますが、経済援助を秘密裏に行い、犯罪の需要をおさえるのが、もろもろの犯罪の根元を押さえる有効な手だてかと思いまする」
とか、

「あの顎が見事に発達した見世者格闘者(プロレスラー)が正体では、と言われている未知殿(ミスターバッテン)と称する者を犯罪組織に特使としてつかわしましたらいかがでしょう」
など、公儀としての面目などまったくない策を綱吉に進言する始末(しまつ)である。

ところが!これらの具申を受けた綱吉は、

「うむ、どの策も効き目がありそうなもっともな策じゃ。すぐさまとりかかれ」
と、脈絡(みゃくらく)も何もない、行きあたりばったりの指示を出すのであった…。

しかし、具申した者は言いっぱなしで誰一人自らは動こうとせず、選任された担当奉行へ押しつけるのみである。
押しつけられた担当奉行はと言うと、次の人事異動が来るまで言を左右にして静かにしているのみである。

犯罪の被害にあった家の者、とりわけ子供をかどわかされた親は、憤りをとおり越して呆れるばかりである。
「本気で、犯罪者をつかまえる気があるのか…」

あてにならない公儀に愛想をつかした被害者たちは集まり、大手の読売屋(メジャーマスコミ)などの聞き書き屋の面談(インタビュー)をとおして、江戸じゅうに事件と被害の実態、それに公儀の無策を明らかにするよう訴えた。
しかし、大手読売屋は公儀のご威光(役人のプレッシャー)を恐れて、半端な記事しか書かない。

そして時がたち、色んな事件の記事の売れ行きが下がり始めると、担当には小僧以下の能力しかない芸人的鶯嬢(タレント女子アナ)などを当てる始末であり、世論形成には何の役目も果たせない。したがって何も解決しない…。
被害者は泣き寝入りするしかなかった…。

しかし、子供がかどわかしにあった親たちは到底あきらめることはできない。

「なんとか一日も早く子供を奪い返して頂きたい」
と、公儀に再三の陳情を続けるのだが、

「その方たちの悲しみは十二分にわかっておる。公儀も担当奉行を選任して、ことの解決に努力しておるのだ」
などという、なんの裏付けもない返事しか返ってこない…。
何もしない…、やる気も無い…公儀。
それを正す姿勢を見せない商業的世間の声(体制迎合マスコミ)…。

綱吉は、
「ゆすりや騙りにあった者たちや、神隠しにあった子供たちは可愛そうであるが、『盗人にも一分の理』と言うこともあろう。アル意味、友愛の心で接すれば犯罪者も悔い改め、神隠しにあった子供たちも戻ってくるのではないか」
などと、まったく意味不明な『アル意味』という枕言葉をつけた講釈を続けるのみであった。

人びとには、綱吉には統治能力など何もないことがわかってきた。

将軍就位の競争時点での公約(マニフェスト)を聞いて、もしかしたらまともな政を進めてくれるのではないか、と期待したのだが…。
それは言わば、『猫に向かってワンと鳴け』と言うに等しい、空しい期待であったのだ…。

被害にあった家では、

「綱吉の首を絞めてやる!」
とまで怒っているのだが、それに本人だけは気づかない…。

最悪の状況が続く…。
街には薫風が吹き渡る季節になっていたが、それとは裏腹に、人々は下を向くばかりであった。

苦しみ、悲しみにいつまで耐えれば良いのであろう…。
続く
ご訪問ありがとうございます!!

桃太郎 行者役子角.jpg


「クリックしていただけると励みになります!!」


ブログランキング・にほんブログ村へ


posted by ぷんぷん at 16:34| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。