2020年04月14日

三 カラクリ準備!

三 カラクリ準備!

カラクリの話に移ると、竹田近江(たけだおうみ)が、連絡が取れない状況で作戦を進めるために、お京が長崎から持ち帰った懐中時計を幾つか早急に複製することを提案した。

(まてよ、むやみな複製は特許権侵害になるかの…、ま、作戦が終わったら速やかに破却(はきゃく)するということですまそう)
と、善八は自問自答した。

「要塞の城壁上で哨戒する兵を打ち倒すには、いかがするかの…」
との宗兵衛のつぶやきに翔吉が申し出た。

「竜平から聞いたのですが、行者様の猪声幻惑(ブッ、クラこいた)の術を使う工夫がつかないものでしょうか。行者様が発するという圧倒的な臭気に、哨戒兵はたちまちひっくり返ること受けあいかと思いますが」

それまで黙っていた伝次郎の目が光った。
「あの…、『におい』ということは気体を用いる術ということでしょうか」

「あからさまにいうと放屁ということです」

「それならば蛇腹筒を使った道具はどうでしょうか。二人一組(ダブルス)で使用する物ですが。
まず、ロウ引きした気密性が完璧な大型の老人用おむつを行者様に着けてもらい、後にひかえてもらいます。
そして、これもロウ引きをした柔軟な布筒をとおして、小田原提灯のように前後に伸び縮みする蛇腹筒につなぎます。これには前面に穴があいています。
前の者が布筒をまたいで蛇腹筒を構えます。
そこで、行者さまに力んでもらって蛇腹筒に放屁を吸いこみ、前の者が敵目がけて発射する!
お話しによりますと姿を見せずに浮遊できるということですが、いきなり夜空から…、考えただけでわくわくします。『香気砲(こうきほう)』と名付けましょう!」
と、新屁器(しんヘーき)の名前まで付けて、一人悦(えつ)に入(い)っていた。

……、皆は無言であった…。

香気砲.png


その新屁器の威力は想像を絶するものであろう…。

(生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約に対しては灰色(グレー)であるが、においはすぐに消えて証拠は残らんし、健康被害は一刻の事じゃろうし、ま、よいか。それにしてもなんとも品のない兵器じゃのう…)
と、善八はため息をついた。

同じくため息をついた宗兵衛が続けた。

「さて、子供たちを地下牢から脱出させる方法はいかがする」

翔吉が申し出た。
「行者様がみょうに感心しておられました、地下牢の水洗厠下の水路を使うのはどうでしょう」

「うん、大人もなんとか通れるほどの穴ではあったが、径三分(約九ミリメートル)ほどの鉄格子がはめてあった」
との行者の話に、慶順が提案した。

「王水(おうすい)という薬液を使えばどうかの、半刻(約一時間)ほどで鉄格子を溶かしきれようかと思うが。
薬剤は長崎の出島では常備しておるはずじゃ。ヨハネス殿は医官ということじゃから簡単にお作り願えよう」

濃い塩酸と硝酸を三対一の体積比で混合した王水は、ふつうの酸には溶けない金や白金をも溶かすことができる。
最強の液体ということでその名がついたのである。

「さて最後に渡峡(ときょう)の工夫じゃが」
との宗兵衛のつぶやきに、伝次郎が発言をもとめた。

「渡峡作戦の話しをおうかがいしてから、現地で作った竹の筏(いかだ)を使用することを考えておりました。
まず、討ち入りのあと、牙島から基隆側に渡峡する人と物を基本としますと、大目に見て全部で千五十貫(約三九〇〇キログラム)ほどの重さを運ぶことになります。
これらを念頭において筏の総数、形を工夫します。
そして、かよい綱をピンと張りますが、綱は滑車ではさんで摩擦を無くします。筏を押し出せば、潮に斜めに押されて向こう岸に勝手に海峡を渡っていきます。

海峡段取り.png


潮の流れが逆転すれば、また勝手に海峡を渡ってくることになります」

皆は絵図を見て納得した。

りふじん堂の面々は、部隊ごとにさらに手順や工夫を詰めた。

「お世話になります。どのようにしてお運びいただけるのかしら?」

との、お京の申し出に、行者はお京と二人きりで南海旅行を楽しめることを思い出した。

異国の王の血を引くお京の気高さと色気に完全に敗北していた行者は、生来の性癖が急にムクムクと湧いてきた!

(お京さんに軽蔑される、二度と口をきいてもらえなくなるかも…)

などとウジウジと考えていた行者は一大決心した。
いや、もはやなりきっていた!

「お京さん、いや女王様!
南海への行き帰りのあいだ、できる限り露出度の高い挑発的な服を着て、ヤツガレ(私)を下僕として扱って頂けないでしょうか!
どうぞ『エンノ字』とでも呼び捨てて頂きますよう!」
と、熱に浮かされたような目で、すがるように頼み込んだのだった。

その、哀れにこい願う貧相な爺ぃを見ると、

(あらっ、もしかしたら私は…)
と、お京も気付いたのだった…。

お京は片目瞑り(ウインク)をして、さらさらと半紙に絵を描いた。

「わかったわ。でも、こんな椅子で運んでくれなきゃだめよ」

背後頭上から頭に足先が乗せられるような椅子と、背負子(しょいこ)を背おった行者が書かれていた。

「えっ、こんなにもやつがれをいじめていただけるのですか!」

行者は歓喜のあまり、泡を吹いてひっくりかえってしまった…。

皆は、行者が倒れたのには一瞬ちらっと眼をやったのみで、ソレハソレトシテというふうで、自分たちの工夫を熱心に考えるのだった…。

行者はお京が描いた絵図を持って、カラクリ伝次郎に作製を頼むと、
夜中にもかかわらず、ものの一刻(約二時間)もしないうちに『大和ラクラク便』と名づけた椅子背負子(バックパック)を作成してくれたのである。

「あの〜実は…、私も行者様と同じ趣味がございまして…ウラヤマシイ!
…マッ、それはさておき、行者様が大和国ご出身ということで『大和ラクラク便』と命名しました」
と、同じ趣味仲間の好意と嫉妬の喜び(?)から作ってくれたのだった。

それを見たお京は胸をなでおろして、その夜は心おきなく衣装(ファッション)に専念することができたのである。

(アーよかった、これで直接手を触れられたりせずに済むわ!)


四 天九牌の仕かけ?

ところで、と万造が翔吉の腰に目をやりながら、

「お腰の根付をお見せ頂けませんか。
数年前まで江戸で大層人気があった、女義太夫・境法之介(さかいのりのすけ)は皆様ご存知でしょう。御禁制の薬に手を出したとかで江戸所払いになったということですが、その腰にさがっていた根付と同じ物のようです」
と、天九牌の根付を受けとって、ふところから出した鉄串であちこち軽く押すと、根付の下端が開き、中から茶褐色の大きめの胡麻粒ほどの丸薬がこぼれ出た。

慶順がその丸薬のにおいをかぐと、つぶやいた。

「阿片じゃ…」

「うわさでは、法之助は江戸所払いになったあと、無職の亭主と子供を食わせるためにひそかに台湾にわたり、しばらく彼の地を巡業していたやに聞いています」

「ふむ…、台湾の百連壇のねぐらに阿片がためこまれているようじゃな。
これもすべて始末することが肝要じゃな」
善八がつぶやいた。


作戦会議は終了して、慶順たちが帰っていった。

姿をかくして警護していった新助・太助、が半刻約一時間)ほどして帰ってきた。

「二人の男がつけていました。この男たちは黒鍬衆(くろくわしゅう)の長屋に帰っていきました」

「やはりな。能勢様のお屋敷から帰るとき、背なかがむずがゆかったが…。しかし、黒鍬衆とは…」
と、つぶやいた善八は、皆に言いわたした。

「皆、聞かれよ。
子供たち奪還が第一ゆえ当面は公儀と手を結ぶが、事が終わったあとは手切れとなることを覚悟しておくよう」


翌早朝、山田信政と今井壮九に宛てられた文を持ったお京が、彼らの協力をあおぐため先発することになった。

中の蔵の第三の部屋に向かって声をかけた。

「エンノ字、出てきなさい。すぐ出発だよ!」

お京は全身黒一色であった。裾をほとんど腰までたくしあげた忍び袷(あわせ)を着て、ピッタリとした紗(うすぎぬ)の襷文筒袴(クロスもようタイツ)で下半身を包んでいた。

足には、指先が出る、武器にも使える踵に細高い歯をつけた武者草鞋(かかとさいたかいはむしゃわらじ(ハイヒール))をはいていた。そして、目の部分を明けた顔上部を隠す派手な覆面をつけて皮鞭を持っていた。

椅子背負い子.png


「早くおしっ!」
行者は歓喜の涙を流し、椅子背負子(大和ラクラク便)を背におってしゃがんだ。
お京が椅子にふんぞり返り、行者の背に鞭を走らせた…。

「さあ、お行きっ!」
と、行者の背中を皮鞭で一撃して、行者の頭を組んだ足先で踏みつけた。

(どっかで見た光景のような…、デブがいなかったようではあるが…)
皆は既視感(デジャビュ)にとらわれて固まってしまった…。
続く
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posted by ぷんぷん at 12:08| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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