2020年06月02日

三 京までの帰還

三 京までの帰還


六月二十日、日が落ちてしばらくした頃。
鶴港はひそかに長崎港に碇をなげ、ヨハネス兄弟や長崎の子と財宝をおろした。

港はずれに停泊していた船から松明がふられると、鶴港はその船に近づいていった。その船は紀伊国屋文左衛門の持船『楽市丸』である。文左衛門の片腕である竹蔵が鶴港に乗りこんでいて、長崎以外の町の子供たちと荷物を楽市丸に移し始めた。
この港で船をかえるのである。

皆は、長崎の子供たちを親元に帰すための工夫を考えた。
行者の夢枕囁き(マインドコントロール)の術で、子供たちの今後のさし障り(トラウマ)になりかねない、つらく悲しい記憶を消し去り、この後の負担が少ないできるだけオツムがあったかい者の屋敷内に移すという段取りである。

宗兵衛は長崎奉行にねらいを定めた。

行者と竜平が、グッスリ寝こんだ子供たち十二人を長崎奉行所に運び、客座敷の布団に寝かしつけていった。
そのうえで行者が、独言伝達(ツブヤキ知ろう)の術をしかけた。

この術は、術を仕かける部屋を見わたせる物(甲)と、行者がいる部屋にある同じ物(乙)に特別な呪文をかけると、甲がある部屋の話し声が乙を経由して聞くことができるという、行者があみ出した個人情報保護を無視した術である。

皆は唐人屋敷の奥座敷に移動した。

行者は、唐人屋敷の一室、子供たちを移した奉行所の客間、そして奉行の居間の三つの部屋の掛軸の前に移動して、数珠をまさぐっては、ほとんど聞きとれない野州(やしゅう(栃木))なまりのくぐもった声で念じた。


翌早朝、皆が控える座敷の掛軸から、野州なまりに変換された奉行と同心の声がした。

「お奉行、大変なことが起こりました!」

「なんじゃ、朝っぱらからそうぞうしい」

「先ほど奥座敷に、子供が枕をならべて寝ているとの知らせがありました。子供に問いただしますと、かどわかしの届けが出ていた子らのようなのです」

「何を寝ぼけておる、そんなことがあるわけはないであろう」
と奉行はしかったが、それでも一応はその同心から状況を聞きとった。

念のために奉行所を囲む塀の内外をしらべたが、何者かが侵入した形跡もない。
もちろん子供たちのはき物もどこにもない…。

(ドウイウコッチャ?)
と、回転があまりよろしくないオツムでよくよく考えてみると、大変なことになるかもしれないということに気づいた。

(ウン?まてよ、エライコッチャ!下手をすると、奉行たるわしが子らをかどわかして、長い間奉行所に閉じ込めていた事になるではないか…。
ムムムッ…、…、ハーッ…、どのようなおとがめがあるかはわからぬが、仕方がない…)
と、
『子らは神隠しにあったものであり、このたび神隠しがとかれてぶじ帰ってきました』という、なんら科学的根拠がない(私は正真正銘(リアル)アホです)と言わんばかりの内容の報告書を作成し、江戸の勘定奉行あての公用早飛脚に託した。

江戸に送られた調べ書きの内容を、無形飛翔(ステルスフライト)の術で座敷の片隅からうかがい見た行者と竜平が、すぐさま皆につたえた。
宗兵衛が、江戸の善八に首尾を認めた早文を持つ鳩を放すと、皆に告げた。

「さて、そろそろ江戸に戻る頃かのう。江戸に向けて出港の準備じゃ」

一方、翔吉がひそかにヨハネスとフレデリックを出島に送りとどけ、出島の商館長(カピタン)ヘンドリックと今後の方針についてつめていた。
ヘンドリックはフレデリックをだきしめて、次いで翔吉の手をとった。

「このたびはまことにありがとうございました。よろしければヨハネスを江戸へお連れ下さい。
これは海賊運搬船船長から聞きとりました西班牙(スペイン)人海賊幹部の正式な姓名を記した名簿です。何かの時のためにおわたししておきます」

翌早朝七つ。

送る者、送られる者、皆は別れを惜しんで再会を約した。

「ヘンドリック様、ヨハネス殿、このたびはまことにお世話になり申した。フレデリック殿のからだが一日も早く元に戻りますように念じております」
と翔吉が代表して、二人の阿蘭陀(オランダ)人に感謝の言葉を残した。

その脇では、貝穀屋の取引相手である大黒屋宗兵衛と小兵衛が話していた。

「大黒屋様、例の件はよろしくお願いいたします」

「おまかせ下さい。きっとしてのけますからご心配なく!」


チョッと離れた暗がりで声が聞こえた。

「竜チャン!」

「行チャン!」
行者と竜平はガバとだきあった。そして涙を流して別れをつげた…


さわやかな朝日がのぼる頃、楽市丸は長崎湾口を出ると玄界灘をしのぎ、静かな瀬戸の内海をわたり、翌々日の夜五つ頃に大坂の安治川(あじがわ)河口に碇を投げた。

大坂東町奉行があわてふためき、長崎のときと同じ一連の騒ぎがくり返された。やはりアホな調べ書きを持つ早飛脚が、江戸に向かい走り出していった。

数日後、京西町奉行の役宅から、子供たちが親元に帰っていき、早飛脚が江戸に向かって走り出していった。

さらに数日後、熱田奉行の役宅に十四人の子供を移すと、おなじドタバタが始まり、やはり早飛脚が江戸に向かって走っていった。

選抜(ノミネート)された長崎奉行、大阪東町奉行、京西町奉行、熱田奉行のオツムがホッカホカであったことは言うまでもない…。
続く
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posted by ぷんぷん at 14:01| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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