2020年07月21日

二 不穏な動き?

二 不穏な動き?


三奉行所会議で、北町奉行川口宗恒は七福丸が持ち帰った小判の使い道を談合した。
宗恒としては、珍しくまともな上奏書を作成して老中会議で報告した。

「このたび、子どもたちの神隠しがとかれた喜びを、江戸市中の皆で分かち合うために分配する方法を町年寄に検討させるべきである。ただし、現金給付は人びとを怠惰にさせるのみであるゆえ、まかりならぬこととする」

筆頭老中はわが意を得たりとばかりにとりまとめた。

「まことに妥当な意見である。この線でお上のご決済を得ようと思う。柳沢殿、お上のご都合をお聞きしてくれぬか」
と、昨年お側用人にして、老中格となっていた柳沢吉保に依頼した。

「お上は風邪をめされておられます。一定の時が来ましたならば、お上のご機嫌が一定のかんばしきときに奏上いたします」

御用部屋を出ると、吉保はつぶやいた。

「正論で事を進めては筆頭老中へのお上の信頼が深まるばかりじゃ。このたびの騒ぎを使い、老中をけ落とせぬものか…」


数日後、綱吉が喜ぶ内容に変えて報告した吉保が、老中に声をかけた。

「ご老中、このあいだの小判の使い道の件でございますが、お上のご意向はお犬小屋の維持経費に当てよ、ということでございました。もはや上申するに及ばずとのお言葉です。老中の名でお触れを出せとのことです」

筆頭老中は思わず、柳沢吉保をにらみつけ、翌日から病と称して登城しなくなった…。

行者の術で様子を知った善八は、大手読売屋にその話を流した。
どの読売も、使い道を曲げたのは柳沢吉保であると読みとれるような筆の運びとなっていた。
翌朝から町中で読売が売り出された。宝船が持ち帰った小判の使い道が明らかになると、人々は大きく落胆した。

わきたっていた江戸の町は急速に白けていった…。いわゆる『ぬか喜び』に終わったのである。
ただ仕世堂のみは、この件についての読売を出さなかった…。


神隠し騒動がひとまずしずまってきた八月になると、江戸の町に少しではあるが活気が見え始めた。

仕世堂が、京の八文字屋から江戸における版権をゆずりうけて刊行した、お伽草紙『桃太郎奇談(ももたろうきだん)』が超売筋(ベストセラー)なっていた。

紙代しかとらず、生活が苦しい者には無料で配布されたお伽草紙の内容に、人びとは溜飲をさげたのである。

そして貝穀屋(かいこくや)から、これまでになく良くきく朝鮮人参『珠光人参(じゅこうにんじん)』が善意の医者にごく安値で渡され、高級香『李夫人(りふじん)』は誰にも無料で配布された。

慶順はじめ真面目に庶民の病気をみている町医は腕を振るって、病に苦しむ人々を治療した。そして、李夫人は、すてばちになりそうな人びとの心を、少しずつだが穏やかにしていった…。

なんらの恩恵も受けることができなかった江戸町民へのささやかな、そして少しでも明るい話題を、というりふじん堂の心意気であった…。

江戸に帰った数日後の深夜、能勢に連れられたヨハネスが密かに筆頭老中邸をおとずれた。

「このたびのりふじん堂一党の皆様のご活躍は、わが国にとっても大きな利益をもたらしました。改めてお礼を申し上げます」

「南町の能勢からあらましは聞いており申す。こちらこそまことに世話になった。カピタン殿によしなにお伝え下され」

「ところで、かの西班牙(スペイン)という国の今の王は、少々狂気をやどしておりまして、いわゆるアブナイ国であります。そして、清国もナカナカ…。
そこで、たとえば『日本、清国、西班牙国とわが阿蘭陀(オランダ)国の四ヶ国協議』なる談合組織を作り、今後の西班牙国や清国の暴走をおさえる、ということはできませぬか」
と、ヨハネスが提案した。

筆頭老中はしばらく目をつむっていたが、目を開くと頭をさげた。

「恐れ多いことではあるが、今のお上と、お上が信頼する今の幕閣では、わが国の鎖国令を超える決断は不可能であると言わざるを得ぬ。まことに申しわけござらぬ…」

体面を終えた頼相とヨハネスから話しを聞いた善八も、頭を下げざるを得なかった。

「まことに申しわけありませぬ。このたびのご足労には厚くお礼申し上げます」

「いやいや、皆様のこととこのたびの大冒険は、生涯忘れ得ないことでしょう。
それと兄をとりもどして頂きました。これだけでもお国の安全にご協力することは、わが国のつとめであります。さて、行者殿、長崎へ連れもどして頂けますまいか。カピタンが交代する時期がせまっておりますゆえ」

さびしげな行者に手をにぎられたヨハネスが飛び立っていった…。

ややあって行者がもどってくると、善八は頼んだ。

「行者様、お上のご寵愛厚い柳沢吉保様の様子、あのなんとかの術で探りたいのですが」

「独言伝達(ツブヤキ知ろう)の術のことかの、イイヨ…」
続く

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posted by ぷんぷん at 10:18| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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