2020年08月04日

四 反撃!

四 反撃!


翌月から、りふじん堂一党は行動を開始した。

大晦日がせまった二十九日の深夜、太助に率いられた散華衆(さんかしゅう)の姿がお犬小屋に現われた。そして、眠り団子を与えられて眠りこんだ十頭ほどの犬をかついだ散華衆が密かに江戸城に向かい、行者が寝入った犬を置いていった…。

朝になると、目が覚めた犬がさわがしく吠え始め、餌を求め始めた。
そして座敷内におどりこみ、女中や役人の着物の裾にかみつく始末で、城内は大騒ぎとなった。

「やめろ、尻にかみつくな、ちくしょうめ、たたき殺すぞ!じゃなかった、しずかにしなされお犬さま…」

「キャーッ、私の自慢の内掛けを放さないと、ただじゃおかないわよ!…、じゃなかった、お放しくださいお犬さま…」

城内の者は生類憐みの令の手前、手荒なこともできずに、そのとりしずめに右往左往するのであった。

小屋狂兵衛の忍び衆も非番の者も城内に非常召集され、りふじん堂の見張りをとき、城内にもどらざるを得なかった。


その夜、物陰で、りふじん堂のまわりを監視していた太助の指笛が鳴ると、宗兵衛と懇意にしている厨川(くりやがわ)衆が作った荒布橋(あらめばし)下の水面下の出入り口から、善八の仲間の車衆の手で大量の千両箱が運び出された。

深夜の九つ、浅草寺裏手のご神域の林の中に、千両箱をのせた最後の町かごが到着した。
車衆が千両箱にとり付き、厨川衆が作った地下蔵に収められて石のふたが閉じられた。
ややあって、背なかに風呂敷包みを背負った翔吉が、行者とともに姿を現してつぶやいた。

「間に合ったか…」

新助は二本の杉をのぼりおりし、三本目の杉の太枝から三本のテグスをたぐり寄せ、くくりつけられた何やら提灯のような物を枝葉の中に隠して降りてきた。


大晦日がやってきた。

来年こそはいい年になるように、と人々は続々と神社仏閣に詰めかけた。年中にぎわう浅草寺などは、奉行所から整理の者を出すほどである。

同じ頃、綱吉が吉保にわたした覚書を持った行者が、水戸藩中屋敷の黄門様・水戸光圀の寝所に現われてささやいていた。

「余は家康じゃ。その方がつね日頃、ヒヒ爺ぃとの陰口も全く無視して綱吉に御政道の正しきを忠言しておることは良く知っておる。心して聞け。
たわけた文を置いておく。柳沢なる不埒者をこらしめ綱吉に灸をすえよ。
それと、このような飢饉などの想定外の天変地異に備えて、埋蔵金を浅草寺に隠しておいた。その用途を指導せよ。生類憐みの令などに使わせてはならぬ。
除夜の鐘がなり終わったとき、浅草寺に埋蔵金のありかを指し示すきざしが現われるであろう。夢、疑うことなかれ…」
と、ささやき、ボワワーンッと消えていった。

光圀は目を覚ました。

ややボケが始まっている光圀はしばらくポカンとしていたが、枕もとの文に気づくとやおらシャキーンとして、

「あのお方が権現(家康)様かのう…、わが家に伝わる絵姿とは、似ても似つかぬような気もする。恐れ多いことであるが、下痢でもめしておられたのかのう…」
と、まるでトンチンカンなことをつぶやいたが、枕もとの文を一読するとニヤッと笑みがこぼれた。

「この文のお上の文字と花押はまぎれもない本物じゃ。明朝の総登城が楽しみじゃわい」

そして手をたたき、二人の腹心を寝所に呼んだ。
まず渥美格之進(あつみかくのしん)に、

「カクさん、上屋敷にまいり、せがれに伝えてくれまいか」
と、水戸家当主の息子綱条(つなえだ)に何事か伝えるよう命じた。
次に佐々木助三郎(ささきすけさぶろう)に、

「スケさんは浅草寺に出向き、何事が起こるか見とどけて総登城の前に知らせてくれまいか」
と、命じた。そして、

「ヒヒッ、ヒヒヒッ、ファーハッハッハッ!…ウッ、ゲホゲホッ」
と、明朝の自分の活躍に思いを致して、一人大笑いして痰をからませてしまった。

さめた目で、格之進が背をさすり、助三郎がよだれをぬぐってやると、コトリと寝入ってしまった。
ため息をついた二人は、気を取り直して、使命を果たすべく水戸藩中屋敷を走り出していった。


除夜の鐘が鳴り終わった。

南町の定回り同心大月謙次郎は、勘太という手先を引きつれて混雑する浅草寺境内の警備にあたっていた。とその時、人びとが騒ぎ始めた。
浅草寺の上空に、うっすらと七福神の姿が浮かんでいるのである。
勘太が、右手と右足、左手と左足を同時に動かしながら歩みよっていき、

「空を見ろ!鳥だ、きつね火だ、いや七福神だ!」

と、上空を指さし、そして、地面を指さした。

「おうっ、七福神が何か指し示しているぞ」


桃太郎奇譚 七福神.jpg


そこには上空の七福神から一筋の光がとどいており、何やら枝葉に隠れた広い石板が見えていた。かたわらには何故か都合よく金梃子(かなてこ)が転がっている。
年越しの酒に酔った火消しの若い衆が数人前に出てきて、

「勘太どきねえ、おいらたちの出番だ」
と、金梃子を受けとると、たちまち石板を脇に寄せた。
そこには山積みにされた千両箱が、一筋の光に照らされていた。


「大根(ダイコン)…」

謙次郎はつぶやいた。が、気を取り直した謙次郎が、

「皆の願いがとどいたようじゃ。どうやら権現様が、想定外の世情になったとき、世直しに役立てるために残された埋蔵金のようじゃ」
と、声をあげると、野次が飛んだ。

「心配いたすな、今度は間違いなく、世の人びとのために使われるはずじゃ。それ運べ」
との謙次郎の声に、皆は、

「わっしょいわっしょい」
と、お神輿よろしく、千両箱を浅草寺本堂に運びこんだ。

その様子を光圀の家臣佐々木助三郎が見とどけ、走り始めた。

別の暗がりから、ギリギリとくやしがる歯ぎしりの音とともに、小屋狂兵衛が姿を現した。

人びとがいなくなった裏の林では、新助が七福神を回収していた。
七福神を描いた紙と竹で作った、熱気球である。
火力の強い油火で浮遊した七福神は、三本のテグスで空中に位置を固定されていたのだ。
翔吉の依頼で、カラクリ伝十郎が作った物である。

やがて、七つの鐘が鳴り、東の空がうっすらと明るくなり始めた。
江戸城へ向かう大名行列が増えてきて、やがて拝賀(はいが)総登城を告げる大太鼓の音が響き始めた…。
続く
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posted by ぷんぷん at 10:45| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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