2020年08月18日

二 最後の闘い!

二 最後の闘い!


善八は、この月の月番である南町奉行能勢頼相をたずねた。

「江戸の町を騒がせることになりそうです。お許し頂きますよう」
「日本橋界隈を南町の手の者で封鎖して進ぜよう。不埒者をこらしめよ」
「ありがたきお言葉でございます」

善八は頼相邸を辞すと、皆に命じた。

「皆、戦いの仕度じゃ」

深夜、黒鍬衆は十人ずつほど三つの組に分かれ、仕世堂と貝穀屋を囲んでいた。だが、その後ろにりふじん堂一党がひそんでいることには気づいていない…。

貝穀屋の前で、黒鍬衆は思いもよらぬ背後からの攻撃にうろたえた。

「引っこんでろ」

新助の小太刀にきき手の筋をはね切られた一人がうずくまった。

「そらそらっ」
と、目にもとまらぬ速さで太助の両手から投げられる小柄を目に受けた男と、ひざがしらに小柄が刺さった男が戦線離脱した。

太助が、

「ピュウピュウ」
と、指笛をふいた。すると、バサバサという羽音とともに夜烏が隣の店の屋根に集まってきた。太助は、先ほどのとは調子の違う、

「ピューッ」
という合図とともに、残った小柄を夜空に放り投げた。烏は屋根から飛び立つと小柄を両足につかみ、黒鍬衆をおそった。背中に小柄をつき立てられた二人が血を流し、烏の攻撃を避けるため頭をかかえうずくまった。


四人が、怒りの形相で立ち向かってくると、宗兵衛の手から火炎が放射された。竹の水鉄砲から放射された油の炎は叩いても消えない。
炎を消すため武器を放り出して四人は掘割に飛びこんだ。すると、四人は次々に水中に引きこまれていった…。

おぼれて失神してしまった男たちの横から新助が顔を出して声をかけた。

「太助、こいつらを引き上げるのを手つだってくれ」
しばらくして、貝穀屋の前に十人の男たちがしばられて転がされていた。


仕世堂の前では、お京、翔吉、尚栄が素手で黒鍬衆と対峙していた。

二人が両側からお京に殺到した。

「なめんじゃないよ、ハッ!」
という、短い気合いとともに、思わぬ速さでお京が回転した。
その動きをとらえられない二人は、何がなんだかわからないまま倒されていた。高速で回転するその脚が凶器となり、側頭部をしたたかにたたいたのである。

背後から切りつける気配をさっした翔吉は、地面近くまで身体を縮めてやりすごし、後ろ向きに相手の懐に密着すると、身体を伸ばした。
密着した翔吉に刀が使えないため、男は飛びさがろうとした。その時、

「そんなに冷たくしなくったっていいじゃねえか」
と、クルリとからだを回した翔吉の両足が男の上半身をかけあがった。顎を蹴り上げられた男は吹っ飛んで悶絶してしまった。
刀はクルクル回って飛んでいき、ひかえに回っていた男の右肩に突き立った…。

五人の男に同時にせまられた尚栄は、両足を肩幅より広めにして右足を前に出してかまえた。そして、手の平を上に向けた右手を男たちの前にかざし、ニヤッと笑うと、指先をチョイチョイと曲げてさそい、

「アチャッ、アチャ、アチャ、アチャーッ!」
という奇声を発しながら、尚栄の二つの拳がピストン運動をくり返した。
…、拳の残像が消えないうちに男たちは倒れていた。

同じように十人の男たちが転がされるのにさほどの時間もかからなかった…。

中庭に降り立った第三の組・狂兵衛たちが人の気配がしないのに気づいた時、中の蔵の屋根に身を潜めていた二人が立ちあがった。

やにわに、本郷武蔵が持つ半弓から短矢が連射され、またたくまに五人の男たちが脚や肩を押さえながら庭を転がっていた。

「本郷さん、少しは残しておいて下されや」

「久しぶりに、伊藤一刀斎様ゆずりの技が見られますかな」

善八が庭に降り立つや、狂兵衛を先頭にして五人の男たちが殺到してきた。
善八は、はた目にはゆっくりと見える剣を、ふり上げふり下ろすこと五回。
すると五人の男たちは声を発することなく、悶絶して庭にたおれふしていた。

「峰打ちでござる」
善八の口から、武家言葉がもれた。

「すさまじい剣技でありますな…。相手の刀がとどくより一瞬早くわが刀が相手にとどけば良い、との極意でござるか…。それには力より、もっとも無駄のない軌道に刃をのせる、ということでござるな…、ウームッ」

「いやいや年寄りの冷や水でありました。本郷さんの日置流(へきりゅう)の半弓早打ちに、年がいもなく興奮しました。おはずかしい…」

「いやいや、善八殿の剣技にくらべれば拙者の腕など、まだまだ…」
二人は男たちをしばろうともせず、互いをほめるのであった。

そこに、翔吉と太助を外の男たちの見張りに残し、宗兵衛、新助、お京そして尚栄がもどってきた。
が、二人は…。

「ホホーッ、ナカナカ…」
「イヤーッ、マダマダ…」

新助と尚栄は無言でため息をつき、狂兵衛以下の十人をしばりあげた…。

お京が、中の蔵の第三の扉の中に向かって声をかけた。

「行者様、終わりましてございます。黒鍬衆を少しお運び願えますか」
行者は、四ッ谷のお犬小屋に、十人の黒鍬衆を投げこんできた。

朝になれば、昨年暮れの江戸城内犬騒動のさかさま劇が始まるであろう…。

日本橋のたもとに出張っていた頼相のもとへ、善八が出かけて首尾を報告した。
二人は互いの目を見つめ合っていたが、ややあって善八は目礼した。
頼相は、二つの店の前に転がっている黒鍬衆を南町奉行所に引き立てていった。

翌朝、四ッ谷のお犬小屋では、
「ヒエーッ、イテテッ」
と、悲鳴をあげながら、犬から逃げまわる狂兵衛たちの姿があった…。
続く
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posted by ぷんぷん at 10:18| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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