2020年02月26日

二 超法規有志連合!

二 超法規有志連合!

善八は、お京を恐々と横目で見ながらも、知り得た情報を皆に話し、そして謙次郎に向かって平伏した。

「多くの犯罪はこれ以上発生しないよう、江戸の町奉行所ににらみをきかせていただくほかございません。
が、かどわかしのみは子供たちを取り戻すことが唯一の解決です。それには、困難ではありますが、江戸を離れて動くしか方法がございませぬ。
私どもは、理不尽にも異国に連れ去られるかもしれない子供たちを、是非にも助け出したいのです。理不尽なことをやらかす奴らを退治したいのです!
私どもはしがない読売屋、料理屋ではございますが、人びとの難儀を見すごしにはできません。欲得なしで共に汗を流してくれる仲間や取引相手も各地におります。鎖国のご法も承知のうえで申し上げております。是非、私どもに子供たちをとり戻す役回りをお与え頂きたいのです」

謙次郎は、町民の実力にはあなどりがたいものがある、ということを十分認めている同心であり、善八の申し出は良く理解できた。

善八は続けた。

「恐れ多いことですが、南町のお奉行様をとおして、長崎奉行様にご指示を出して頂きたいのです。今はそれだけで十分でございます」

「今長崎に赴任しておられる奉行は、蓄財(金もうけ)のみにいそしんでいると聞こえている。さほどの助けにはなるまいと思うがの…」
と、謙次郎が答えた。

「いえその逆でございます。私どもが長崎で動きまわるときに一々口を差しはさまないように、とお伝え願いたいのです」

「なるほど、何もしないということであれば、かのお奉行にもできることではあるな…」
と、みょうに納得して受けあった。


翌朝、謙次郎は奉行の頼相(よりすけ)に目どおりを願い、善八から知り得た情報を話した。

「わしも、早急に長崎調べを行なうことが肝要であると思っている。が、わしが言うのもなんだが、役人のおざなりな調べではいま一つ信頼が置けぬのじゃ。勝手がわからぬ土地でもあり、いつ終わるのかものう…」
とため息をついた。

「お奉行、町人の実力はばかになりませぬ。善八たちの力をかりるのも一案かと思いまする」
と、善八たちの実力と、それを裏付ける全国同志網(ネットワーク)などについて話した。

「…、よしわかった。これから筆頭ご老中に長崎奉行殿へのご指示書きを頂きにまいる。筆頭ご老中は話が分かるお方じゃ(ナ〜ンも考えのない、了承様(OKマン)じゃ)。

善八をわしの屋敷に連れてまいれ。
わしが頭をさげて直接協力を頼もう。

これは国としてのあり様に関わる問題じゃ。その者達が海を渡ることもわしの腹にしまって、墓場に持ち行くことにしよう。
とにかく子供たちを取りもどすために、力を合わせるのじゃ!」
と即断して席を立った。


ここに官民合同の、『超法規有志連合』が結成されたのである。
続く
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2020年02月18日

二 超法規有志連合!

二 超法規有志連合!

りふじん堂一党は、公儀が一日も早く多くの事件を解決して、江戸の町が平穏になることを祈り、何か協力できることがあればなんでもしようと見守っていた。
多くの犯罪、とりわけかどわかしにあった子供たちのことを考えると、とにかく一刻を争うのである。

やがて、善八は腹をくくった。そして、りふじん堂一党を集めて告げた。

「もはや公儀だのみはあきらめざるを得ない。りふじん堂が出動すべき時じゃと思う。よろしいか!」

皆は無言で頭を下げた。

(能勢様は、ご自分が蝮とよんだ唐人組織が百連壇という組織であることまでは知らない。突破口は長崎にあるが、公儀の調べを待っていては手遅れになる…)
心を決めた善八はつぶやいた。

「まずは、公儀でただお一人信頼できる能勢様に、りふじん堂の志と実力をお認め頂き、役人の口出しを封じて頂くことにしよう。そして役人が口出しを始めるまえに情報を集め、オロオロしている間にサッサと子供たちを救出する、ということを基本に工夫しよう。
が、その方法じゃが…」

しばらく考えていた善八は腕組みをといて、

「よし、思案がついた」
とつぶやき、貧乏徳利と茶碗を持って行者の部屋をたずねた。


「なんじゃ?」

居眠りしていた行者は涎をぬぐって起きあがった。そして焼酎をチューチューと飲み始めた。

「行者様のあの素晴らしい術の数々は健在ですかの?」

「もちろんじゃ。さらに磨きがかかっておるぞ!」

「無形飛翔(ステルスフライト)の術も?」

「もちろんじゃ」

「超時空移動(タイムトラベル)の術や夢枕囁き(マインドコントロール)の術、他の術も?」

「もちろんじゃ、と言うておろうが!」


善八は、老人を怒らせるとあとが面倒と、質問を終了した。

「それ以外にもいろいろ発明したが」

「いえいえ、今までおうかがいしたすばらしい術で、トリアエズ十分でございまして」

「トリアエズ?」

「いえ、こちらのことで…。
ところで、懇意にして頂いている皆様に、貝穀屋で一献さしあげたいと思っております。この席で、かどわかされた子供たちを奪い返すための談合をしたいのですが…」

「清四君のことを心から心配しておるのだ。わしも力のかぎり協力するぞ!」

「ただ、行者様は私の本家筋の親戚ということにさせて頂きたいのです。行者様のご経歴を他の方がたにわかってもらうことは、なかなか難しいのではないかと思いますので」

「いいとも、わしはかまわんよ」

(行者の術が活かせれば相当の調べができるのう。あとは、この行者のやる気を持続させる手だてじゃが…、ウン、これはお京さんにまかせよう)

もろもろの状況を文にしたためた善八は、すでに長崎から京に向かっていたお京と翔吉に向けて鳩を放した。


貝穀屋前の桟橋についた猪牙舟(ちょきぶね)(軽舟)から、お京が降り立った。

「京の八文字屋様をうかがおうと、かの地を踏んだおりに早文を手にいたしました。おりよく懇意の紀伊国屋文左衛門様の千石船に大坂からお乗せ頂くことができ、風待ちすることもなく、昨晩伊豆の下田に着きました。
そして今朝、これまた懇意の伊勢屋様の押送舟(おしおくりぶね)に便乗させて頂きました」

八文字屋は、京で浮世草紙や浮世絵を出版する大手の版元である。主人の八左衛門と善八は情報交換をおこたらない。

紀伊国屋文左衛門は今売り出し中の若い海商であり、りふじん堂の皆とはかねて懇意であった。

押送舟は、組立式の帆と五丁から八丁の櫓をつけた快速船である。江戸の魚河岸に各地から毎朝鮮魚をとどけるのである。


夕刻、謙次郎と慶順が、善八、お京と行者が待つ貝穀屋に集まった。
善八が行者を紹介した。

「こちらにおります老人は、私の本家筋の伯父でございます。さき頃江戸見物に大和(奈良)から出てまいりました田舎爺ぃでございます。見ばえも悪く、人柄もいま一つという、言わばくそ爺ぃではございますが、お引きまわしのほどよろしくお願いいたします」

行者が抗議しようとすると、隣に座っているお京が腕をつっつき片目瞑り(ウィンク)した。行者の口はピタッと止まった。



宴も竹の子(たけなわ?)になり、行者は千年の年季が入った『泥鰌(どじょう)すくい』を披露した。

慶順ものりにのり、腹に人の顔を描かせて長崎でおぼえた腹踊り『博多ぶらぶら』を踊り出した。

謙次郎は何やら『ちょぼくれ節』のような歌をうなってゆらゆらし始めた。

ぶらぶら.png


「皆様お酒はそろそろ…」
善八が言ったが誰も聞きやしない。

それを見たお京が、

「エーカゲンニセンカイ!」
と一喝すると、皆はそれぞれの席に正座したのであった…。
続く
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posted by ぷんぷん at 18:04| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月11日

第三章 蝮が這った跡

第三章 蝮が這った跡



『小さな角』のつぶやき…

『自分たちのことは自分たちでやる』のは当り前のことだ。そんなことは親に小遣いをねだるような将軍(お前にだけは言われたくない オ・マ・エ・)に言われなくったって、将軍(オマエ)以外は皆わかっている!

が、起こった犯罪に対しては、捜査権や懲罰権がない士民ではなんとも対処するすべがないではないか!

こればっかりは公儀(政府)が毅然と対応してくれなければ…。
しかも、異国人がからんでいるようだし…。

しかし、役人にまかせておっては、何も解決しないのも現実だ…。

生類憐みの令がドウノ、鎖国令がコウノ、とたらい回しにするばかりだ。

神子丘十三(ゴルゴ13)(?)もいないし…。



一 蝮と蛙?

春がやがて来ようというのに、世相の乱れは一向に正されず、人々の心には春はまだ来ない…。

江戸の治安をあずかる南町奉行能勢頼相(のせよりすけ)は、状況打開を図るために筆頭老中に談判した。

面を伏せて、

「ご老中、この頃の江戸で発生している多くの騒動は、寅三とかいう一介の香具師が起こせるほどの単純なものではありませぬ。黒幕が控えおるものと思われます。
似たような騒動が、各地の繁華な町でも発生しているとのことも耳にはさみました。国じゅうで起きている騒動がさらに続きますれば、公儀のご威光(いこう)がゆらぎかねませぬ。なんとしても早期に解決せねばなりませぬ」
と具申(ぐしん)すると、

「ク〜ッ、ク〜ッ」
という寝息が聞こえた…。

………。

頼助は退出した。

協力してくれる有志を募り『自ら解決するのみだ』と決心した。

数日後、提出された調べ書きに目を通しながら、頼相はつぶやいた。

「北町の手入れは時間の無駄であったわい。まとめると次のようなことかの…。
諸々の犯罪には、大がかりな唐人組織がからんでいるようじゃ。

この組織を『蝮』としよう。

唐人が絡むということを前提にすると、塒(ねぐら)は長崎にあるものと断定してよいであろう。仮に唐に本拠を置く組織だとすると、長崎の役目は前進基地ということか…。

蝮たちは長崎から東に向い、大坂、京、熱田など多くの富商(ふしょう)がいる町をねらった。そして各地の盛り場で裏家業を行っている顔役にとり入った。

この顔役を『蛙』としよう。

蝮は蛙に阿片を与えて一家を乗っとった。そして短期間で多くの利益をあげ、同時に奉行所の調べを混乱させるために、色んな犯罪を一斉に仕かけた。

その特徴は、世間で不評の生類憐みの令を基本にして組み立てたところで、この触(ふ)れに反発している人びとは捜査に協力することはないと見きっている…。

打ちこわしなどが起きれば、さらに荒稼ぎが見こめるとのねらいがもあったようじゃ。
そして、犯罪の手じまいを見こして、蛙が犯人であるかのような噂や証拠を周到に準備した。蝮は捜査が及ぶにおいをかいだら、すぐさま蛙を証言不能な状態にして身代りに仕立てて、自分たちへ捜査が及ばないようにした。

まだ、わからないのは…
蝮の正体は何者か?子供たちをこの先どのようにしようとしているのか?

いずれにしろ、長崎を調べぬことには、この霧の向こうには出られぬようじゃのう。異国との関りだけはないことを祈るばかりじゃ…」


頼相のつぶやく声を聞きながら、行者は頭上からその調べ書きをのぞいていた。
居所が明らかな者の近辺には、無形飛翔(ステルスフライト)の術で姿を消して近付くことができるのである。

日本列島地図1.png




清四がかどわかされたかもしれないということを耳にしていた行者は、なんとかとり戻す手がかりが得られないものかと、行者なりに南北奉行の調べの様子を見守っていたのだ。

北町奉行の川口宗恒を監視するのは時間の無駄であると、早々に見きりをつけ、最近は能相のみに標的(ターゲット)をしぼっている。

その日、善八に頼相に提出された調べ書きの話をした。

行者から話を聞いた善八は、北町奉行所の牢内にいる寅三からいきさつを確かめるように依頼した。

行者は深夜、無形飛翔(ステルスフライト)の術で牢内に忍び入り、夢枕囁き(マインドコントロール)の術で寅三の深層記憶を引き出した。それによると次のような事実が判明した…。


昨年の暮れ、熱田の、寅三の兄弟分の紹介状を持って唐人軽業一座が興行させてくれと申しこんできた。
寅三は一座に場所を分け与えた。そのうち唐人の束(たば)ねが、『疲れがとれますぜ、たまにしか使わなければ体にはまったく悪さしませんから』と、寅三に阿片をすすめた。そして幹部にも…

やがて唐人一味は寅三の自宅に居すわるようになり、寅三は奥の小部屋に押しこまれた。そして、自宅まで乗っとられてしまったのだ。

そして、ゆるみきった江戸の町に多くの犯罪を一斉(いっせい)に仕かけたのである。かどわかしも…。

そして、かどわかされた子供の中に清四もいたのであるが、寅三の子分の丈吉という男が、鰻とりをしている清四を連れ去ったとき、懐から天九牌がすべり落ちたのである。丈吉はふところからすべり落ちた物が何かはわからなかったが、直感で重要なものであると感じ、唐人の頭の行李から盗み出していたものである。
そのとき丈吉は気づかなかったが、唐人の一人に見られていたのだ…。

ここまで聞いたとき、牢番が見回りに来たため、行者はあわてて引き上げた。

その頃、丈吉を監視していた唐人は、江戸の束ねに報告していた。

「丈吉は軽業小屋で痛めつけて、逃げねえようにしばって転がしてますが…」
「あの根付を盗んだうえ、誰かに拾われてしまったか…。今ごろは役人の手に渡っているかもしれねえな。
ヨシ!丈吉を裸にして他に何か持ってないかよく確かめたら、土左衛門に見せかけろ。そろそろ引きあげどきだ!」

唐人の束ねは指示した。
「野郎ども、そろそろ潮時だ。
丈吉を始末したら、寅三一家のたれこみの用意をしろ。いままで流してきた噂を裏付ける証拠を、投げ文と一緒にできるだけ頭のゆるい御用聞きの家に投げこめ。小屋には何も残すな。寅三一家を集めて、奉行所で申し開きができないくらいに狂わせてしまえ。
他の町の仲間に、長崎に集まるよう回状をまわすことも忘れるな!」

「寅三、あとはまかせたぜ。せいぜい時間稼ぎしてくんな…」

北町奉行所同心山影琢磨(やまかげたくま)が使う御用聞きが投げ文を見つけたときには、唐人軽業一座は影も形もなくなっていた…、という顛末だった。
続く
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posted by ぷんぷん at 11:45| Comment(0) | りふじん堂・桃太郎奇譚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする