2020年05月19日

第七章 はるかなる家路

第七章 はるかなる家路



『小さな角』のつぶやき…

さて、勝って兜の緒を締めよ、じゃないが、帰りが肝心だな。
まだまだいくつもの試練が待ちうけていようが、皆の力を結集して踏んばれはきっとうまくいく!

それにしても、雷光加熱器(電子レンジ)で過熱し過ぎたような頭を持つ役人がアチコチにいることよ…。
税金返せ!と言いたくなるのもわからんじゃないな。

しかし、また何やら変てこな影がうごめき始めたようだな…。
(トッテモ、心配!)

弥勒菩薩様は、変てこな勘違いはお控えになった方が…。
(チョット、心配…)



一 第一次海戦『南沙諸島沖の戦い』!

六月十日の未明、作戦を終了した男たちを乗せた『鶴港(かくこう)』と『呂宋丸(ルソンまる)』が静かに淡水を出港した。

港に残る男たちと呂宋丸に乗った男たちに、鶴港の船べりから子供たちの声が響いた。

「おじさんたち、ありがとうっ」

「皆、無事に父母のもとに帰るのだぞ」

男たちが大きく手をふり返すなか、二隻の船は分かれていった…。

淡水から鶴港が出港してしばらくしたころ、

「これ以上こき使われたらブッコワレテしまう。お京さんにも会いたいし…」
と、行者は一人で長崎へ飛んで帰っていった…。

長崎に待機していたお京が、江戸に向けた鳩を放したあと行者に告げた。

「お奉行から届いた南海のお二人への礼状を私がお預かりしてまいりました。
鎖国の御法があるゆえ私から届けてもらいたいとのことで…」

お京はさっそく例の衣装にきがえると、たちまち成りきって、

「エンノ字、仕事だよ!」
と、唐人屋敷奥の座敷でのびていた行者に声をかけた。

「ヒェッ!」
(どこにいてもこき使われる、地獄だ!デモナンカウレシイ…)

そして、唐人屋敷の上空にまたピシッ、ピシッ、という音が聞こえると、

「ヒーッ!」
という声がしていたが、すぐに聞こえなくなった…。

夕刻。お京たちは、南沙諸島の小さな島影をのぞむ比律賓(フィリピン)のバラバク島の上空にさしかかると、眼下に帆を休めている呂宋(ルソン)丸を見つけた。
同時に、少し離れた島陰に停泊しているあやしい南蛮船の姿にも気づいた。

その船は、墨西哥(メキシコ)から運搬してきたガラクタに近い雑貨を、法外な値で売りさばきながら牙島に向かい、戻りには子供たちを墨西哥(メキシコ)に連れ去る海賊運搬船だったのである。

お京は呂宋丸に降り立ち、能勢頼相(のせよりすけ)からあずかった書状を取り出した。

「山田様、今井殿、このたびはまことにお世話になりました。これは、江戸の南町奉行能勢様からお二人にあてた礼状でございます」

書状には次のようなことが書かれてあった…。

「公儀の祖法『鎖国令』のために苦労しているにも関わらず、この度そなたたちが合力(ごうりき)してくれたことに心より感謝しておる。が、表向き今は如何ともしがたい。しばらくは、『りふじん堂』の皆と談合して、しかるべき融通を利かせよ。今はそれしか言える力しかわしにはない。不甲斐ないわしを許せよ。皆、つつがなく暮らすよう…、云々…」

二人は書状を巻きおわると配下に回した。そして、一同は江戸の方角に向かってしばらく頭を下げていた。

一同が頭を上げるの待っていたお京が話した。

「ところで、子供たちを遠い異国につれさる西班牙(スペイン)運搬船がとなりの島陰に碇を下ろしているのを見つけました。退治できませぬか」

その夜の五つ(午後八時)になる頃、泰和(たいわ)衆が操る短艇(ボート)が暗やみにまぎれてこぎ出し、遠まわりして沖あいのほうから静かに海賊運搬船に近づいていった。
一方、陸地側から、今井壮九の配下が櫓をこぐ短艇(ボート)が運搬船にこぎよっていった。

短艇が運搬船の近くまでくると、松明の明かりのなかでお京が柬埔寨(カンボジア)の舞をはじめた。それは妖しくも美しい舞であった。
そしてその玄妙(げんみょう)さをぶちこわすように、行者がチンドンヤよろしく、ヘタクソな手つきで鉦(かね)や小太鼓をたたくのだった。そのかたわらには大きな銅鑼(ドラ)がすえられている。

甲板での酒盛りで酔っぱらっていた海賊たちは、そのチグハグな短艇の舞に気づき、陸地側の舷側に集まって、かん高い声を発してさわぎ始めた。
そして、行者が発する雑音をまったく無視した幻想的な舞に吸い寄せられた。

その頃、沖あいから静かにこぎよせた短艇が海賊運搬船の碇綱(いかりづな)に近よっていった。そして、男たちが次々に船に侵入しては物かげに隠れた…。

行者の鉦(かね)が高調子(たかちょうし)になり、壮九が大きく銅鑼を鳴らした。

「チャンチキ、チャンチキ、チャンチキ、ジャーンッ」

その時、お京と行者の姿がかき消えたのだった。そして、船の艫(とも)にお京の姿が現われ、また舞をはじめた。海賊たちは、

「オーッ」
と、お京めがけてドドッと走りよっていった。そしてまた鉦の音が鳴り、銅鑼がジャーンッと響くとお京の姿がかき消え、今度は船の帆柱の見張り台に現われた。また海賊たちは、

「オーッ」
と、帆柱めがけてドドッと走りよっていった。

その間に、銅鑼を配下の一人に託した壮九たちも船に忍びこんでいった。

海賊は、船上のあちこちに、現われては消えるお京と行者の姿を追いかけ続けた。

「チャンチキ、チャンチキ、チャンチキ、ジャーンッ、オーッ、ドドッ…。チャンチキ、チャンチキ、チャンチキ、ジャーンッ、オーッ、ドドッ…」

なんともアホな光景がくり返されるなか、泰和衆が発煙薬を仕かけていった。

酔っぱらった海賊たちがゼーゼーと息切れを始める頃、船のあちこちから煙が出はじめた。

「敵襲だ!」
と船長が叫んだとき、海賊たちは泰和衆に囲まれていたのだった。

「それそれっ」
とくりだす山田信政の短槍に、海賊たちの剣ははじきとばされた。

「ヒュン、ヒュン」
とのぶきみな風きり音がひびくと、生き物のように思わぬところからおそいかかる壮九の鎖鎌に先込式鳥銃(マスケット銃)がつぎつぎにからめとられていった。

うす衣を脱ぎすてたお京は、例の露出度の高い忍び袷(あわせ)をまとい、凶器となる踵がついた忍び草鞋(かかとがついたしのびわらじ(ハイヒール))をはいていた。

「キエッ、キエッ」
その美しい脚が旋回し、短い気合が海賊たちの中ほどを通り抜けていくと、海賊たちはバタバタと倒れふしていくのだった。

行者はそのお京の姿を、熱っぽい眼差しで追いかけていた。

「お京様っ…」
随喜の表情で、泡をふいてひっくり返ってしまった。

行者はさておき、半刻(約一時間)ほどもすると甲板にはぐるぐる巻きにしばられた船長と、数珠つなぎに手をしばられた海賊たちがすわらせられていた。

「この船長は日本と阿蘭陀(オランダ)の外交手当てに役に立つかと思いますので、長崎に連れてまいることにします。あとはおまかせします。
エンノ字、寝てんじゃないよ!」
お京にけとばされた行者が、目をさました。

椅子背負い子.png


猿ぐつわをされ、椅子背負子(大和ラクラク便)にしばられた運搬船の船長を伴った行者が、天空のかなたに飛び立っていった。
ややあって行者が姿を現わした。

「商館長(カピタン)殿に事情を説明して、男を預けてまいった」

この船長を出島に連行したことが、後に大きな幸いをもたらすのである…。

「では、お名残りおしゅうございますが、改めておさらばでございます」
呂宋丸の男たちが手をふるなか、お京と行者が天空に浮かぶとその姿がかき消えた。ピシッという鞭の音と、苦悶(随喜?)の悲鳴を残して…。
「ヒーッ!」
続く
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2020年05月12日

四 あと始末…

四 あと始末…

翔竜たちが一日遅れで無事にもどってきた。

一連の牙島攻略作戦では命を落としたものは一人もいなかった。軽傷を負った者が十名ほどで、完勝と言ってよい内容で終了した…。

珠光村で見つけた天九牌を手にした宗兵衛が、つぶやいた。

「これは…、銅で作られた天九牌は塩梅よく暖めると、阿片煙が出て直接吸える仕組みになっているようじゃ。つまり、阿片携行具であり吸引具でもあるようだ…。象牙で作られた物は地位高き者への贈物にするのではないかの。
天九牌は、阿片入りのままの物を少し残して、あとは火薬を詰め替えて昇竜殿におわたしするのじゃ。蝮退治にお使い頂こう。火薬に詰めかえた木箱は、鄭氏党、泰和衆でお分け下され」

さて、と皆を見まわした。

「清国の非難を封じる手当てですが…。ヨハネス殿、翔竜殿、西班牙(スペイン)国王の文書と福建省巡撫(ふっけんしょうじゅんぶ)・超笛統(ちょうてきとう)の返書の写しをお願いできますかの」

清国は英明をうたわれる康熙(こうき)帝の時代である。

超笛統の動きを朝廷に直接摘発するのが、最も効果的で手っとり早く、そしてあとくされがなかろうということで皆の考えは一致した。

翔虎の案内で、公正な行政官であり康熙帝の信頼もあついと言われる、都察院首班(とさついんしゅはん)(政務監察大臣)の寝所に姿を消して忍び入った。
そして、西班牙(スペイン)国王の書簡の写し、超笛統が受けとった賄賂の領収書、超笛統の弾劾(だんがい)書、阿片が入った天九牌を、枕元にそっと置いた。

翔虎がささやいた。

「余は清国の開祖・愛新覚羅奴児哈赤(アイシンギョロ・ヌルハチ)である。台湾を統括している超笛統をこらしめよ、罪はこのとおりじゃ…、ウンヌンカンヌン…」

すると、翔虎がとめるのも聞かず行者がうっすらと姿を現した。
声優が翔虎ならば俳優は自分じゃ、とはなはだしく勘違いしたのか、見えを張ったのか…、定かではない…。

都察院首班が寝ぼけ眼で行者を見定めようとすると、行者はあわてて姿を消した…。

「超適当(ちょうてきとう)な超笛統(ちょうてきとう)ならばやりかねないことばかりじゃ。金もうけのために福建省巡撫の職を賄賂で買ったと言われた奴であったな。近頃は台湾に行きっぱなしのようだが…。

あ奴はお上の親戚の…、誰とかの遊び仲間の…、愛人の弟の…、義兄弟の商売仲間の…、近所の豆腐屋の…、せがれの悪仲間の…ナントカカントカノ……?と言われておったが、よう考えるとなんで巡撫(知事)になれたのか不明な奴であったのう…。

それにしてもまことに…、まことに恐れ多いことではあるが、奴児哈赤(ヌルハチ)様の御霊の影は、どうも品のかけらも見られなかったが…」

この動きとあわせて、鄭氏党はとらえている百連壇の下っ端の消息をそれとなく街に流していた…。

深夜、この男が寝る小屋の壁にコツンと小石があたる音がした。
男がそっと身を起こして静かに戸をあけてすべり出ていった。
暗がりから、百連壇の幹部に指揮された男たちの影がにじみ出し、しずかに蔵から木箱を運び出していった。

「あばよ、まぬけめ」
と男がののしり声を残し、闇に消えていった。

阿片の一部を超笛統にちらつかせ、りふじん堂一党に奪われた財宝に見合う金品を住民からまきあげることに、目をつむるよう依頼するのである。
しかし、鄭氏党がひそかにあとをつけていることには気づかなかった。

百連壇の幹部とその下っ端の二人が超笛統の屋敷に入った。
しばらくして、鄭氏党の者が屋敷の裏手に潜んだ。

「巡撫様、このほど和寇が台湾に攻めてまいりまして、巡撫様におとどけしようと思っておりました財宝も、私どもの合法的な事業資金もすっかり奪われましてございます。そこで、何とぞご厚情をたまわりまして、事業再開資金確保のために、台湾の民から税をとり立てることにお目こぼし頂きますようお願いします。

もちろん、合法的事業利益の四割は、法人税として納めさせて頂きます。納め方は、有志の方々がつどう会館用の土地購入資金として、とか…。

それとは別に、これはお礼のお薬でございます。
これは薬でございますから、社会通念上の儀礼として許容範囲内のものかと…。もっともその値は何万銀もする物ではございますが…」
と、鄭氏党から奪い返した、天九牌が詰められた木箱の一つをさし出した。

「ウムッ、遠路ごくろうであった。慰労してとらす」

気分が良くなった超笛統は、百連壇幹部と二人で宴をはることにした。
ようは、阿片宴会(パーティー)を早く催したかっただけなのだが…。

ひとしきり酒に酔った超笛統は、

「ところで、薬はどのようにあつかえばよいのかな」
と、泥鰌(どじょう)ヒゲをよじりながら阿片を催促した。

「ははっ、これは気付きませんで失礼いたしました」
と、百連壇幹部が卓の下に置いてある木箱から銅製の天九牌をとり出して火ばしではさむとロウソクの火で焙りはじめた。と、硫黄くさいにおいがし始めた…。

おやっ、と超笛統が思うまもなく、ドカンと天九牌が爆発した。
そのはずみでロウソクがたおれ、次いで卓(テーブル)の酒ビンがたおれたのである。
九十度の白酒(パイチュウ)は、卓を流れて天九牌の木箱にしたたりおち、そのあとを炎が追いかけていった。そして、木箱の天九牌とその下に仕込まれていた火薬が、

「ドッカーン…!」
と、大爆発を起こしてしまった。

爆音を聞いた鄭氏党の者は邸内に踏み込んだ。
鄭氏党の二人は、念のためにとうめき声をあげる幹部のふところを探ると、髑髏(どくろ)号に乗り込む百連壇幹部四人の氏名が記された書付を見つけたのである。

翔竜は、太助が残していった鳩にその書付を託した…。

台湾での一連の作戦は終了した。
続く

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2020年05月05日

三 百連壇攻撃!

三 百連壇攻撃!


百連壇のねぐらを包囲していた部隊は作戦を開始した。
鄭氏党(ていしとう)の配下が珠(じゅ)光(こう)村の若者たちとともに、天九牌の根付を見せて村に入っていった。
珠光村の若者は竹かごに入れた肉や米野菜、甕(かめ)に入れた酒と薪を背負っている。

「ありがてぇ、酒がきれていたところだ。米と野菜は母屋に運べ」
と酒甕を家の中に運びこませた。

皆は、高床の家の床下に発煙薬を仕込んだ薪をそれとなく置き、梯子下に麻袋を入れた竹かごを目立たないように隠した。
そして、そっと麻袋の口をあけて竹かごに中の物を入れ、梯子のなかほどに細縄をはり、鄭翔虎たちが待つ場所に帰っていった。

基隆の方から爆発音が聞こえた。

「仕かけよう」
本郷武蔵が火矢を放った。

近くの竹林から切りとった竹で作った即席の弓矢であったが、

「武蔵、あいかわらずいい腕だな」
と山田信政が話しかけると、武蔵はニヤッと笑った

「弘法筆を選ばず、じゃ」

みごとに射こまれた火矢は薪につきささり、仕込まれていた発煙薬に引火していった。
煙にあわてて家から出てきた百連壇が、細縄に足をからませると、梯子の下の竹かごがたおれて蝮が噴出してきた。

「ギャッ」
「蝮が蝮にやられているぜ…」
と誰かがつぶやいた。

激闘が始まった。

青龍刀を持った頭立(かしらだ)った男には、武蔵が対峙した。

「アイヤーッ」
という気合とともに、男は数歩で武蔵の頭ほどに跳躍し、蹴りを見まってきた。
かわされることを見こしていた男は、着地すると同時に振り返りざまに青龍刀を横なぎに回してきた。

武蔵は、その場にかがんで頭上に青龍刀をかわした。武蔵が飛びさがることを予想して二の手を送ろうと構えていた男は、一瞬武蔵の姿を見失ってしまった。

武蔵はそのかっこうから、男より高く跳躍していたのだ。武蔵は剛剣同田(どうた)貫(ぬき)を背なかをたたくほどに振りかぶり、気合とともに男の頭に一撃をくわえた。

「チェースト!」

ひるんだ男は青龍刀で受けたが、青龍刀は両断されて男は胸近くまで切りわられていた。男は声も発せず血しぶきをあげてドウッと倒れこんだのであった。

隣では、短槍を構えた山田信政が、戟(げき)を持つ男を相手にしていた。
男は両手に持つ戟を小きざみに出し引きしていたが、

「ホイッ」
という奇妙な気合とともに、いきなり片手を離して戟の先を伸ばして信政の首をねらってきた。

信政はわずかに顔をふり、軽くケラ首を叩いて戟を横に流し、短槍をくるりと回転して男の腰を石突で突いた。

男は倒れこみながらふりむいて、戟を投げつけてきた。

信政はたやすくさけると、逆に男目がけて短槍を投げたのである。
ねらいたがわず、男の腹部に槍の先端部が吸いこまれていった。

「キューッ」
といううめき声を残して男は絶命した。

直剣を振りかざす男に向かって、今井壮九は鎖鎌を両手にしていた。

男は直剣を、数十の剣先にも見えるほどのすさまじい速さでくり出してきた。
壮九は、やつぎばやにくりだされる直剣の剣先を、両手に張った鎖でたくみに受けてはそらしていたが、しばらくすると一気に二間(約三.六メートル)ほども飛びさがった。

壮九は目をつむると、剣が巻き起こす風の音に聞き入った。
そして一定の律動(リズム)があることを聞きとると、次にくり出される剣先が来る場所に分銅を投げた。見事に直剣をからめると一気に鎖を引きよせた。

壮九の力にさからって鎖が巻き付いた直剣を持っていた男は、

「ハイーッ」
という声とともに壮九に向けて直剣を手ばなし、同時に腰の短剣を壮九の顔に投げつけてきたのである。

壮九は首をひねってかわすと、鎖にまきとられた直剣を男の首筋にまわした。
自分の直剣を受けた男の首は、ふしぎそうな表情をしてコロリと落ちた。

三下は翔虎とその配下の餌食になっていった…。

半刻(約一時間)もすると、ねぐらにいた百連壇一味は一人も残さず始末されていた。
そこに、ふたたび行者に伴われた竜平が現われ、

「やがて百連壇の幹部たちが来ます。始末して頂けまいか、とのことです」

「かしこまって候(そうろう)」
と武蔵たちは不敵な笑いを浮かべて、通りかかった五人の男を簡単に始末した。

「手ごたえがない奴らだったの…」

武蔵たちは珠光村の捜索を始めた。
翔虎が、いちばん大きな屋敷の奥にある蔵の錠をこじあけると叫んだ。

「こいつはすげえっ、色んな財宝が…、日本の千両箱も何十箱もあるぞ。何やら書きつけも…、福建省巡撫(ふっけんしょうじゅんぶ)・超笛統(ちょうてきとう)が受けとった賄賂の領収書の写しもある」
目ぼしい物をすべて運び出し始めた。

「皆さん来て下され」

奥の離れを捜索していた壮九の声がした。
幾つかのかまどと、大小十幾つの鍋が整然とおかれた、二十坪(約六六平方メートル)ほどの屋根つきの中庭があった。

さらに、中庭に面した崖には岩をくりぬいた蔵があり、天九牌がビッシリと詰めこまれた木箱と、油紙の袋に密封された阿片が詰まった木箱が整然と積み上げられていた。その量は膨大であった。

武蔵は、
「この木箱のなかの袋の阿片を、遠くの海に捨ててきてもらえますまいか」
と行者に依頼して、天九牌に目をやった。

「この天九牌の根付は銅板や象牙で作られているのう…、ま、百連壇の残党をおびき出す餌には使えそうだ。この木箱は湿気を断つのにすぐれているゆえ、火薬を詰めるのに使えよう」

天九牌.png
天九牌

翔吉たちが珠光村の前で合流した。
珠光村の一行とは、ここで別れることになる。

皆が小休止しているなか、翔吉は、翔虎と珠光村の村長の息子を、少し離れた山中に誘った。三人で商談を始めた。

「この木と草は、ここではなんの価値もないだろうが、日本では、老山白檀(ろうざんびゃくだん)と言われる香木と、高貴薬(こうきやく)の朝鮮人参だ。どうだ、一枚かまないか?
珠光村の皆さんに採集してもらい、天竺(てんじく)からということで鄭氏党が長崎に運んでくれ。白檀を運ぶのには普通の十分の一の手間で済む。朝鮮人参は運ぶのにかさばらないうえに高価で取引できる。大もうけできるぜ、もうけは三等分でどうだ?」

「乗った。これで軍資金が豊かになる」

「これで生活が楽になります。もうけは近隣の他の部族にも分けたいと思います」
この後の連絡は鄭氏党が仲介することで、稀草類の商談(レアハーブ・ビジネス)は成立した。

小休止が終わると、翔吉たちは珠光村一行と、万感の思いをこめて別れていった。

「無事にお帰りになるように日夜いのっております」
との言葉を背に受けて…。

それらを、百連壇の関白海(かんはくかい)たちが山中に身を隠して見おろしていた。

「何やら気がかりで、手下と服と馬をかえたが命びろいしたのう。ここは手を出さず、後日仕返しだ!」

その日の夜半、百連壇の手下に案内された海賊幹部が百連壇幹部と合流した。
男たちは、りふじん堂や鄭氏党に対する報復の手当てについて談合して、あとは百連壇の配下達にまかせて、快速船を先発させることにした。

鶴港を捕捉して財宝や子供たちを奪い返し、後続する髑髏(どくろ)号と合流したうえで長崎に攻撃を仕かける、という手はずをととのえたのだ。
続く
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